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麦茶の香ばしい匂いが 血液を流れやすくすることを確認

2001年5月2日

カゴメ株式会社総合研究所(栃木県西那須野町)は、独立行政法人食品総合研究所の菊池佑二先生が考案された装置を用いて、麦茶の血液を流れやすくする(サラサラにする)作用は、麦茶に含まれる香ばしい匂いの成分であるピラジン類によることを明らかにしました。
この研究内容は、2001年5月6日~5月8日に開催されました、第55回日本栄養・食糧学会(京都,国立京都国際会館)において研究発表いたしました。
研究のきっかけ
 日本人は夏季において、喉の渇きを癒し、涼を求める目的で、麦茶を好んで飲用します。その歴史は古く、麦を煎って飲用したことを示す記述は10世紀に編纂された「和妙類聚抄」にも見られます。
 麦茶はたくさん飲んでも水よりもおなかにやさしいことが経験的に知られており、動物を使った実験から、胃粘膜の炎症を防ぐ物質が含まれていることが明らかにされていますが、それ以外の効用ついてはほとんど研究されていませんでした。しかし、江戸時代に出版された書物(「本朝食鑑」人見必大著)の中でも、大麦の効用として「胸を寛げ気分をおだやかにし、血を涼にし、つかえを消し、食を進める」との記載があるように、麦茶を飲むことが何らかの良い作用を体に及ぼすと考えました。
 麦茶を飲むことによって最初に影響を受けるのは、吸収された成分が入り込む血液などの循環器系であると考えられます。そこで、麦茶の血液の流れやすさに与える作用に関する研究を開始致しました。
研究の目的
 麦茶の香ばしい匂いの成分であるピラジン類は、血小板の凝集を抑え、血栓をできにくくする、すなわち血液を流れやすくする作用のあることが判っていました。血小板の凝集を抑えるということは、血栓をできにくくすることにつながります。そこで、麦茶が血液をサラサラにするというのはこの物質による作用ではないかと推測し、実験を行ないました。
研究の内容
 健康な男性から採取した血液にピラジン類を加え、血液の流れやすさを比べました(図1)。
その結果、ピラジン類の一種であり、血小板凝集抑制作用が強い、2,3,5-トリメチルピラジンを加えることによって、血液が流れやすくなる(サラサラになる)ことが判りました。一方、構造の中にメチル基を持たないピラジンでは、そのような作用は見られませんでした。なお、この時に用いた2,3,5-トリメチルピラジン溶液の濃度は、麦茶中のメチルピラジン類の総濃度よりも低いものです。
 また、ピラジン類は、アミノ酸と糖から、焙煎の過程において生成されます。麦茶の原料である六条大麦は、ビールの原料となる二条大麦よりも蛋白質含量が高く、同一条件で焙煎した場合、約3倍量のピラジン類が生成されます。
ピラジン類の添加が血液流動性に及ぼす影響
図1.ピラジン類の添加が血液流動性に及ぼす影響
ピラジンの構造
図の説明
 ヘパリン共存下で採取した健康な男性の血液に生理食塩水又はピラジン類の溶液(0.1ppm)を容量比で1%加え、それぞれの血液の流動性をMC-FANにより測定しました。100mlの血液が流れるのに要した時間から各試料の流速を算出した結果、2,3,5-トリメチルピラジン(図2の2, 3, 5位にメチル基が結合)を加えることによって血液がサラサラになる(流速が早くなる)ことが明らかになりました。

 一方、ピラジン(図2)添加では生理食塩水と差が認められませんでしたので、ピラジン骨格にメチル基などの置換基が結合することが活性の発現に必要であると考えられました。
期待される成果
 麦茶を飲むことによって血液が流れやすくなる(サラサラになる)ことから、高血圧症や動脈硬化症といった血液の粘度が高まることによって悪化すると考えられる生活習慣病の予防に良い影響を与えると考えられます。
独立行政法人食品総合研究所菊池先生のコメント
 血液は、体の隅々の細胞にまで栄養成分を運び、老廃物を回収する役割を担っています。そこで、血液の流動性が低下すると、血液を体全体に十分に行きわたらせるために血圧が上昇しますし、血圧が上がると、血管にかかるストレスが強くなり、動脈硬化症を進展させる方向に働きます。このように、血液の流動性の悪化は循環器系の生活習慣病に悪影響を与えることから、血液の流れを良い(サラサラの)状態に保つことが重要であると言えます。
血小板凝集抑制作用のメカニズム
血小板凝集抑制作用のメカニズム 血小板細胞は、血管の損傷部位をみつけ、そこで凝集して出血を止めます。血小板凝集がおこる際には、血小板細胞内にカルシウムイオンが流れ込み、細胞内のカルシウムイオン濃度が上昇し、それが引き金となって血小板凝集反応が進みます。ピラジン類は、細胞外からカルシウムイオンが流れ込む際に通過するカルシウムイオンチャネルを開かなくさせることによって、細胞内のカルシウムイオン濃度の上昇を抑え、血小板が凝集しにくくします。
用語の説明
MC-FAN (Micro Channel array Flow Analyzer):
 菊池先生が考案した血液の流れやすさを測定する装置です。半導体に用いられるシリコンチップ上に幅7mmの微細な溝を並列に作成することで擬似毛細血管を作成し、そこに一定量(100ml)の血液を流して通過に要する時間を計測することで、血液の流れやすさを測定するものです。つまり、一定量の血液が通過するのに要する時間が短いほど、血液が流れやすい(サラサラしている)といえます。

二条大麦と六条大麦:
大麦は穂の結実のしかたで2種類に大別されます。大麦の穂の各節には三個の小穂がつくのですが、その全てが結実するのが六条大麦で、中央の小穂のみが実を結ぶのが二条大麦です。麦茶の香ばしい匂いは蛋白質や糖(でんぷん)が加熱されて生じます。蛋白質の量が多いほど香りが豊かになることから、麦茶の製造には蛋白質含量の多い六条大麦が好ましいといえます。一方、ビールを醸造する際には、蛋白質は雑味の原因になりますから、その含量の少ない二条大麦の方が適しています。

血小板:
血液の中に存在する直径2~3mmの細胞で、血液1mm3あたり15~40万個存在します。血管が傷つくとその部分に粘着して凝集することから、出血を止める働きを持っています。また、自身が凝集するとともに、フィブリンの形成を促し、血液を凝固させ、血栓形成を促進します。

ピラジン類:
図2のような基本骨格を持ち、2, 3, 5, 6位にメチル基やエチル基などの置換基がつきます(置換基がなにもつかないものがピラジン)。メチル基が結合したものの場合、血小板凝集抑制作用は、メチル基の数が3の時に最も強いとされています。そのため、今回の評価においても、メチル基が全くないものと3個存在するもの(2,3,5位にメチル基がついたもの)とで比較を行ないました。
【資料】学会発表の要旨(抜粋)
第55回 日本栄養・食糧学会大会 発表要旨
麦茶のフレーバー成分であるピラジン類の血液流動性向上作用
○菅沼 大行, 稲熊 隆博, 菊池 佑二
  カゴメ・総研, 農水省・食総研
【目的】
血液の流動性は、特に血管径が赤血球の直径よりも細くなるような毛細血管(微小循環)において重要である。この微小循環における障害は、血栓・塞栓の形成を招いたりすることにより、循環器系疾患の原因となったり、その病態と密接に関係すると考えられる。食品が血液の流動性に及ぼす影響を評価したところ、清涼飲料の一種である麦茶の飲用が血液流動性を向上せしめる結果を得た。続いて、麦茶中の活性物質の検索を行なうとともに、麦の種類や抽出条件による差異についても検討を行なった。

【方法】
麦茶の飲用試験は、インフォームドコンセントを得た健常な男性被験者に午前中空腹時に麦茶250 mlを摂取してもらい、その直前と1時間後に採血を行ない、血液の流動性を比較した。また、in vitroの試験では、同様に同意を得た被験者から採取した血液に、ピラジン類ないしは麦茶の抽出物を希釈して添加し、その流動性を測定した。いずれの場合も、血液の流動性はMC-FAN(日立原町電子工業製)により評価した。すなわち、幅7mm、長さ30 mm、深さ4.5 mmの流路が8736本並列に並んだチップ内を一定差圧下(20 cm水柱圧)にて血液を通過させ、全血100 mlの通過時間を計測した。

【結果】
健常者での飲用試験において、麦茶飲用1時間後の血液流動性が飲用前と比較して有意に向上する結果が得られた。そこで、麦茶のフレーバー成分であり、血小板凝集抑制作用が報告されているピラジン類を麦茶に含まれる濃度で血液に添加したところ、2,3,5-trimethyl pyrazine添加により全血通過時間が短縮されたことから、麦茶飲用による血液流動性向上作用にはピラジン類が関与していることが示唆された。また、置換基を持たないpyrazineの添加では作用が認められず、活性発現には置換基が必要であると考えられた。さらに、複数の焙煎大麦について、麦茶中のピラジン類の量を比較したところ、二条大麦よりも、六条大麦から調製した麦茶の方が顕著に多く含有していた。