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リコピンの吸収にオリーブオイルが効果的であることを解明

2001年5月18日

カゴメ株式会社総合研究所(栃木県西那須野町)は、トマトに多く含まれるリコピンの吸収には、各種食用オイルの中でもオリーブオイルを同時に摂取することが最も効果的であることを明らかにしました。
本研究内容は、日本ビタミン学会第53回大会(2001年5月24日~25日 兵庫県立淡路夢舞台国際会議場)において発表いたしました。
研究のきっかけ
 近年、我が国では、ファーストフードで代表されるような食の北米化が進み、従来のスローフードであった日本型食生活が崩壊してきています。こうした背景から糖尿病、心疾患といった生活習慣病が急増しています。ところで、ここでいうファーストフードとは、早く消化され、早くエネルギーになる食事のことです。反対にスローフードとは、よく噛んで食べ、ゆっくり消化され、ゆっくりとエネルギーに変わる食事法を指します。また観点を変えると、楽しく家族やみんなで食事をすることにもなります。
私たちは、現在の日本人の食事を「スローフード」に戻す手段として、「地中海式ダイエット(食事法)」を推奨しています。トマト、パスタ、オリーブオイルの組み合わせ(ゴールデントライアングルと呼ばれています)の摂取が、健康増進に役立つ食事であると世界的にいわれているからです。
地中海式ダイエットのゴールデントライアングル
研究の目的
 カゴメ(株)総合研究所は、これまでに、トマトジュースとオリーブオイルの同時摂取により、リコピンの吸収が顕著に高まることを明らかにし、本年の5月8日に第55回日本栄養・食糧学会で発表致しております。今回の研究では、オイルの種類の違いによる、リコピンの吸収への影響について調べてみました。
研究の内容
 4種類のオイル(オリーブオイル、サラダオイル、シソオイル、サフラワーオイル(ハイリノール))に、リコピンを同濃度(20mg%)で溶解し、24時間絶食ラットに投与し、投与前、投与後2、4、8、24時間にそれぞれ採血を行ないました。その結果、ラットの血漿中リコピン濃度は、オリーブオイル投与群で最も高くなりました。特に、シソオイルに対しては有意に高くなり、オリーブオイルがリコピン吸収に最も優れていることが明らかとなりました。
次に、ヒトでも同様の作用が認められるかの有無を検証するため、8名のボランティアを被験者として、オリーブオイルとシソオイルを用いてリコピンの吸収性を比較しました。早朝空腹時にリコピン20mgとオイル20gを摂取し、摂取前、摂取後6時間にそれぞれ採血を行ない、血清中カイロミクロン中のリコピン濃度を調べました。その結果、オリーブオイルはシソオイルに比べ、有意差はないものの、平均で約2倍高くなっていました。
そこで、オイルの種類の違いがリコピン吸収に異なる影響を示す要因を検討すべく、モデル試験としてラット腸管を用い、リコピンの構造的な変化を検討しましたところ、腸管内において、オリーブオイルは他のオイルに比べてリコピンのシス異性化をより促進する傾向にあることが判りました。トマト中のリコピンは、大部分がオールトランス体として存在していますが、私たちの身体の中では半分以上がシス体として存在しています。リコピンは、オールトランス体よりもシス体の方が吸収され易いのではないかとの研究報告があります。また、オリーブオイルは一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸が約70%を占めており、オレイン酸は酸化されにくいという性質を持っています。その他にオリーブオイルには油の酸化を防ぐ抗酸化物質も含まれています。このことも、オリーブオイルが他のオイルに比べてリコピンの吸収を高める理由の1つではないかと考えられます。
期待される成果
 カゴメ(株)総合研究所は、これまでの研究で、トマト加工品とオリーブオイルの同時摂取によって効率よくリコピンを吸収できることを明らかにしています。
ある種の疾病の人は健康な人に比べて体内のカロチノイド濃度が顕著に低いことが知られておりますので、トマト料理に使用する油としてオリーブオイルを使うことが、体内のカロチノイド濃度をより高めるのに役立つと考えられます。地中海地方では、昔から日常的にトマトとオリーブオイルを使った料理が食べられていますが、これは美味しいばかりでなく、体にとって効率の良い食べ方であることが、今回の研究から言えます。
ラットへのリコピンを溶解した各種オイル投与後のリコピン吸収性の比較
ラットへのリコピンを溶解した各種オイル投与後のリコピン吸収性の比較
図の説明
 図は、ラットに各種のリコピン溶解オイル投与後のリコピン吸収性を、シソオイルを1として比較したものです(摂取前から8時間後までのカイロミクロン中リコピン濃度と時間を乗ずることによる面積値で比較)。各種食用オイルの中でオリーブオイルが最もリコピンの吸収が良く、特にシソオイルと比較した場合、有意(*P <0.05)に高いことが判りました。
用語の説明
リコピン:
カロチノイドの1つで、トマトに多く含まれる赤い色素。脂溶性であることから油とともに摂取すると吸収性が高まります。カロチノイドの中で抗酸化作用が最も高く、活性酸素が原因と考えられる様々な疾病の予防効果が期待されています。疾病の予防の観点から、これらの抗酸化物質を効率よく吸収し、体内のリコピン濃度を高めることが重要だと考えられます。

4種類のオイルについて
各オイル脂肪酸組成

オールトランス体、シス体:
共役二重結合を有する物質は、その分子構造の中に異なる配置をとることができる。リコピンなどのカロチノイドは、植物中では、大部分がオールトランス体で存在しているが、若干シス体も存在している。人間の体内のリコピンは、シス体が半分以上を占める。オールトランス体とシス体の生理的な意義の違いは判っていない。

リコピンのオールトランス体およびシス体の構造
            リコピンのオールトランス体およびシス体の構造

カイロミクロン:
脂質は水に溶けないので、タンパク質と結合した状態で血液中を循環しています。食事の摂取後、血液中に見られる脂肪の微粒子がカイロミクロンです。カロチノイドやビタミンEなどの脂溶性物質は、カイロミクロンに結合して吸収されます。
【資料】学会発表の要旨
日本ビタミン学会第53回大会 発表要旨
脂肪酸組成の異なるオイルによるリコピン吸収性の比較
○鏑木幸子, 大嶋俊二, 稲熊隆博 (カゴメ総研)
 近年、トマトに多く含まれるリコピンは、カロテノイドの中で最も高い抗酸化作用を有し、活性酸素が原因と考えられる様々な疾病の予防効果が期待されている。リコピンは脂溶性であり、油との同時摂取で吸収性が高まると考えられている。しかし、日常に摂取する油には様々なものがある。そこで今回、脂肪酸の異なる4種類の油を用い、それぞれのリコピンの吸収性に及ぼす影響について比較検討を行った。

 脂肪酸組成の異なる 4種類のオイル(オリーブオイル、サラダオイル、シソオイル、サフラワーオイル)にリコピン(オールトランス体)を溶解し、Wistarラットにリコピン投与量として20mg/300g体重を強制胃内投与した。そして、投与24時間後まで経時的に採血を行った。血漿中のリコピン濃度はフォトダイオードアレイ検出器を装着したHPLCにて測定した。投与後 8時間までのリコピンの血漿中濃度曲線下面積を比較した場合、 4群の中でオリーブオイル群が最も高い値を示した。特に、シソオイル群と比較した場合、有意に高いことが明らかとなった。そこで次に、オリーブオイルとシソオイルにリコピンを溶解後、摘出したラット腸管中にそれぞれ注入し、 37度で24時間インキュベーションを行った。その結果、腸管を用いた場合、両オイルとも経時的にシス異性化が促進することが明らかとなった。リコピンのシス化率は、オリーブオイル群の方がシソオイル群より顕著であり、特に5-、及び9-シスの増加が著しかった。一方、腸管を使わず透析膜中で反応した場合、13-シスは腸管を用いた場合と同様に増加したが、5-、及び9-シスの生成は抑制されていた。これより、5-シスや9-シスへの異性化は、腸管内の環境がもたらしていることが示唆された。
 以上の結果より、オリーブオイルは、他のオイルよりもリコピンの吸収を高めることが明らかとなり、それは、腸管内でリコピンのシス化が促進されるためであることが示唆された。