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体内カロチノイド濃度、尿で測定可能-血中と尿中のカロチノイド濃度の相関を解明-

2001年5月18日

カゴメ株式会社総合研究所(栃木県西那須野町)は、独立行政法人食品総合研究所(脂質素材研究室)と協力し、野菜や果実に含まれるカロチノイドが尿中に排泄され、その尿中濃度が血中濃度と相関することを明らかにしました。
本研究内容は、日本ビタミン学会第53回大会(2001年5月24日~25日  兵庫県立淡路夢舞台国際会議場)において発表いたしました。
研究のきっかけ
 近年、我が国では、ファーストフードで代表されるような食の北米化や生活環境の悪化により、がんや循環器系疾患などの生活習慣病が増加しています。これらの疾病を予防するには食生活の改善が重要です。これまでに行われた大規模な疫学研究では、緑黄色野菜の摂取量や血液中のカロチノイド濃度が高いほど、がんの発生率が低いという逆相関性が示されており、カロチノイドを多く含む緑黄色野菜の摂取の重要性が改めて見直されてきています。緑黄色野菜は、多種類のカロチノイドを豊富に含んでおり、それらの重要な供給源となっています。厚生労働省が公表した「健康日本21」では、1日に120g以上の緑黄色野菜の摂取が目標値として示されています。しかし、日本人の緑黄色野菜の摂取量は1日平均94g程度で、決して十分とはいえません。
野菜を日常的に十分摂取し、体内のカロチノイド濃度を高めることが疾病の予防につながると考えられます。血液中のカロチノイド濃度を調べる研究は、これまで数多く報告されていますが、採血を伴うため簡単に行うことはできません。そこで、非侵襲的にカロチノイドを測定する方法がないものか検討しました。
研究の目的
 非侵襲的に採取できる生体サンプルの一つに尿があります。カロチノイドは脂溶性物質であり水には溶けない性質を有しているため、尿中には排泄されないと考えられていました。しかし、我々は、カロチノイドの排泄過程の一つとして、尿中にも微量に排泄されているかもしれないと考え、尿中にカロチノイドが存在しているか否かを調べてみました。
研究の内容
 カゴメ(株)総合研究所に勤務する15名のボランティアを被験者として、尿を採取しました。そして、約40mlの尿から有機溶媒で抽出した画分について、カロチノイドの存在の有無を調べてみました。
その結果、15名すべての被験者の尿から、主に6種類のカロチノイドが検出されました。尿中に認められたカロチノイドのパターンが血液中のものと同じであり、かつ、その濃度に個人差が認められたことから、次に、各被験者の血漿中のカロチノイド濃度を測定し、尿中の濃度との相関性を調べました。すると、6種類すべてのカロチノイドにおいて、尿中濃度と血漿中濃度が有意な正の相関性を示すことが判りました。カロチノイドの中でも、特にリコピンとβ-カロチンでの相関性が高くなっていました。尿中のカロチノイド濃度は血漿中カロチノイド濃度のおよそ1,000分の1でした。カロチノイドは水には溶けない性質を持っているので、尿中へは蛋白と結合した状態で排泄されているものと考えられます。
尿中および血漿中カロチノイド濃度の相関
図1.尿中および血漿中カロチノイド濃度の相関
図の説明
 15名の被験者から2回ずつ尿と血液を採取し、尿中および血漿中のカロチノイドの濃度を調べました。図は最も高い相関を示したベータカロチンの血漿中濃度を示しています。6種類すべてのカロチノイドについて、尿中と血漿中の濃度にこのような相関が示されました。
ベータカロチンの血漿中濃度
期待される成果
 尿中のカロチノイド濃度と血漿中のカロチノイドが相関することが明らかとなったことで、尿中のカロチノイド濃度を測定することで血漿中のカロチノイド濃度を推定することが可能となりました。よって今後、採血を行なわず、尿を採取してカロチノイド濃度を測定することで、非侵襲的に体内のカロチノイド濃度を把握することができます。そして、被験者の負担を最小限にして、野菜の摂取状況を推定することも可能となります。
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独法食総研脂質素材研究室長(長尾)のコメント
 採血せず、尿のカロチノイドを分析することによって血漿中の濃度を推定できることが示されました。血漿中のカロチノイドの大部分は、日常摂取する果物や野菜に由来しています。したがって、尿のカロチノイド濃度を果実・野菜摂取の程度を示すバロメーターとして、いろいろ利用できるのではと期待しています。一方で、カロチノイド吸収は個体差が大きいこと、食品によってカロチノイドの吸収性が異なることが知られていますので、今後さらに詳しく研究を進めていきたいと考えています。
用語の説明
カロチノイド:
 主に植物に存在する、赤・橙・黄色の色素。ニンジンにはβ-カロチン(橙色)、トマトにはリコピン(赤色)、赤ピーマンにはカプサンチン(赤色)が特徴的に含まれる。β-カロチンなど、ヒトの体内でビタミンAに変換されるものもあるが、最近は、抗酸化作用による疾病予防作用が注目されている。
【資料】学会発表の要旨(抜粋)
日本ビタミン学会第53回大会 発表要旨
尿中および血漿中カロチノイド濃度の相関性
○大嶋俊二, 稲熊隆博(カゴメ総研), 長尾昭彦(農水省食総研)
 近年、緑黄色野菜や果実中に豊富に含まれるカロチノイドの疾病予防作用に注目が集まっている。多くの重要なカロチノイドが日常の食事から摂取されているが、これらの体内動態には未だ不明な点が多い。今回、我々は、カロチノイドが尿中へ未変化体のまま排泄されることを見出し、それらの濃度が血漿中の濃度と相関するか否か検討した。
健康な男性15名の被験者から、早朝空腹時に血液および尿を採取した(幅広いカロチノイド濃度サンプルを得るため、野菜ジュース連続摂取前後で 2 回採取した)。血漿と尿サンプルからそれぞれカロチノイドを抽出し、フォトダイオードアレイ検出器を装着した HPLC を用いてルテイン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン、アルファカロテン、ベータカロテン、リコピン濃度を測定した。また、尿サンプルについてはクレアチニン濃度も測定した。
尿中のカロチノイド濃度は、血漿中濃度の千分の一以下であった。 6 種類すべてのカロチノイドにおいて、血漿と尿の濃度に有意な正の相関性が認められた。特にリコピンとベータカロテンでその相関が高くなっていた。また、尿中濃度をクレアチニン濃度で補正後、血漿中濃度との相関を調べたが、すべてのカロチノイドにおいて相関が高くはならなかった。
 以上の結果より、カロチノイドは未変化体のままで尿中に排泄され、その濃度は血漿中濃度を反映していることが明らかとなった。