ニュースリリース ニュースリリース

トマト・ニンジン・赤ピーマンに網膜酸化を抑制する効果を確認-カゴメ・昭和大 共同研究-

2001年6月1日

カゴメ株式会社総合研究所(栃木県西那須野町)と昭和大学医学部第二薬理学教室(安原一教授)は共同で、トマト、ニンジン、赤ピーマンが酸化ストレスによる網膜変性を抑制する効果を持つことを突き止めました。すなわち、トマト、ニンジン、赤ピーマンを摂取することで、加齢性黄斑変性症などの網膜変性による疾病の予防効果が期待できます。
本研究内容は、第104回 日本薬理学会関東部会(2001年6月2日 つくば国際会議場(茨城))において発表いたしました。
研究のきっかけ
 生活習慣の急激な変化により、生活習慣病をはじめとする種々の疾病が増加しております。それら疾病の発症要因のひとつとして、生体内での活性酸素があげられており、それらを消去する物質、すなわち抗酸化物質が注目されています。
 ところで、眼はものを見るための重要な器官ですが、常に光による障害を受けやすい器官です。その中でも、スクリーンの役割をしている網膜は、光によって発生する活性酸素などの酸化ストレスに絶えずさらされている組織であり、酸化ストレスによって過酸化脂質が生成、そのために網膜は変性し障害がおこります。例えば、網膜の黄斑部が変性することによって発症する加齢性黄斑変性症は、米国では1400万人の患者がいると報告されており、日本でもその患者数は増えているといわれております。
  これらの疾病を予防するには、疫学的研究からカロチノイドやビタミン類の摂取が有効であるとの報告から、緑黄色野菜による網膜変性の抑制作用について検討することと致しました。
研究の目的
 網膜変性の原因のひとつとして、網膜中での活性酸素による過酸化脂質の生成があげられます。そこで、昭和大学の安原先生らと共同で、緑黄色野菜の抽出物による、網膜変性の抑制効果について検討を行ないました。
研究の内容
 ウシの網膜を用い、ラジカル惹起剤である鉄(FeCl3)を加え、生成した過酸化脂質を測定することで行ないました。トマト、ニンジン、赤ピーマンの抽出物は、それぞれ生の野菜を有機溶媒(ヘキサン:アセトン:エタノール:トルエン=10:7:6:7)で抽出したものを使用し、それぞれ含まれているリコピン、β-カロチン、カプサンチン濃度を0.1μMとしております。
  試験系に、トマト、ニンジン、赤ピーマンの抽出物を添加したところ、添加しなかった時(過酸化脂質生成100%)と比較して、トマト抽出物で24.6%、ニンジン抽出物で33.9%、赤ピーマン抽出物で41.5%と、過酸化脂質の生成が抑制されることがわかりました(次項図参照)。過剰であると網膜の変性に作用する過酸化脂質の生成を、トマト、ニンジン、赤ピーマン抽出物が抑制したことにより、加齢性黄斑変性症などの網膜変性による疾病の予防効果が期待できます。
  また、トマト、ニンジン、赤ピーマンに含まれる色素であるカロチノイド(リコピン、β-カロチン、カプサンチン)を単独で評価しましたが、抽出物と比較して作用はそれほど強くはありませんでした。カロチノイドにビタミンEなど加えることにより相乗的な抗酸化作用を示すとの報告があることから、今回の試験においてもカロチノイド単独の効果ではなく、野菜中に含まれる様々な成分の相加、相乗効果によるものと考えられます。
 なお、今回用いたトマト、ニンジン、赤ピーマンの抽出物中には、カロチノイドが生体内と同レベルの0.1μM含まれており、その濃度で過酸化脂質の生成が抑制されたことから、実際に生体内での効果が期待できます。
 網膜障害の原因のひとつに網膜中での過酸化脂質の生成が関与していると報告されております。しかし眼組織中には、カロチノイドやビタミン類などの抗酸化物質が含まれており、それらが活性酸素による過酸化脂質の生成を防ぎ、網膜障害を予防していると考えられていましたが、今回の研究により、その作用を裏付けることができました。また、疫学的な調査により、カロチノイドやビタミン類を多く摂取している人は、網膜変性による疾病の発症が少ないとの報告があります。
 今後は、これら効果に関係している成分を詳細に検討していくとともに、動物などを用いた網膜保護作用について研究を進めていきたいと考えています。
期待される結果
 以上のことから、トマト、ニンジン、赤ピーマンを常に摂取することにより、網膜での過酸化脂質の生成を抑制し、加齢性黄斑変性症などの網膜変性による疾病を予防することが期待できます。
図1. トマト、ニンジン、赤ピーマンの過酸化脂質生成に対する作用
図の説明
 ウシ網膜において、何も加えていない時の過酸化脂質の生成量を100%とし、トマト、ニンジン、赤ピーマン抽出物を加えた時の過酸化脂質の量を生成率(%)で示しました。結果は、トマト抽出物で24.6±9.1%、ニ 塔Wン抽出物で33.9±7.3%、赤ピーマン抽出物で41.5±1.8%と過酸化脂質の生成は有意に低下しております。
 過剰な過酸化脂質は網膜の変性に作用するため、縦軸の過酸化脂質生成率(%)が低ければ低いほど、網膜変性の抑制作用が強いといえます。
 なお、トマト、ニンジン、赤ピーマン抽出物は、それぞれ生の野菜を有機溶媒(ヘキサン:アセトン:エタノール:トルエン=10:7:6:7)で抽出したものを使用し、それぞれリコピン、β-カロチン、カプサンチン濃度が0.1μMとしております。
安原教授のコメント
 網膜にはルテイン、ゼアキサンチンなどカロチノイド色素が含まれ、光などによる網膜障害を抑制していると考えられる。また、光による網膜障害や加齢性黄斑変性症の原因の一つに網膜中の過酸化脂質が関与していると報告されている。従って、緑黄色野菜抽出物は、カロチノイドやその他成分の過酸化脂質生成抑制効果によりこれらの疾患を予防する可能性が期待される。その効果を得るためにもヒトにおける有効成分の代謝(吸収、分布、排泄)を考慮した適切な投与量を検討することが今後の課題である。
網膜変性の抑制作用(網膜での過酸化脂質生成抑制効果)のメカニズム
 網膜中では光化学反応が絶えず起こっており、それにより活性酸素が発生します。通常はカロチノイドやビタミン類などの抗酸化物質や抗酸化酵素により、この活性酸素は速やかに消去されますが、強い光を長時間受けたり、老化に伴う抗酸化酵素活性の低下などにより抗酸化能が低下すると、生じた活性酸素は網膜中の脂質を攻撃し、脂質を過酸化脂質へと変性させ、さらには周りの組織や物質の機能を低下させます。また、過酸化脂質自体も細胞や組織に影響を与え、組織の機能低下を促進させます。
 トマト、ニンジン、赤ピーマン抽出物は、生じた活性酸素を消去し、過酸化脂質の生成を抑えることで、網膜の機能低下を防ぎます。
用語の説明
網膜:
 網膜はカメラで言うとフィルムに相当します。外からの光は水晶体というレンズを通って、網膜の上に像を結びます。網膜には光を感じる細胞が並んでいて、これらの細胞は目の裏側から出ている視神経を介して脳とつながっています。網膜で感じた光は信号として大脳に送られて、映像情報として認識されます。
  ちなみに網膜は、アラキドン酸やドコサヘキサエン酸(DHA)といわれる酸化を受けやすい不飽和脂肪酸を多く含む組織です。



加齢性黄斑変性症:
 黄斑とは眼の網膜の中心にある小さな斑点です。網膜はカメラでいうと光をキャッチするフィルムの役割をしていますが、その網膜でも最も感度が高いのが黄斑部です。
 加齢性黄斑変性症は、加齢(年をとること)により黄斑部が変性し、視野の中心が暗くぼやけたり、ゆがんだりして見える病気です。その他、視力の低下や色覚の異常など、眼に様々な障害が現れ、放置しておくと失明する場合もあります。



活性酸素:
 活性酸素とは、通常の酸素が様々な要因により活性化された状態のもので、生体内でいろいろな物質を攻撃し、変性(酸化)させます。活性酸素は、通常の呼吸でも生体内で発生しており、生体内で発生した活性酸素の一部は、体に侵入した異物を攻撃するなどの生体防御などに役立っておりますが、過剰に発生すると正常な組織や物質を攻撃し悪い影響を与えます。例えば、脂質を攻撃し過酸化脂質にしたり、タンパクを攻撃し変性させ、通常の機能を失わせたりします。そのため、生活習慣病などの疾病を引き起こす原因のひとつといわれております。

抗酸化物質:
 抗酸化物質とは、活性酸素を消去する働きのある物質のことで、ビタミン類では、ビタミンA、E、Cが、また野菜に含まれる色素であるカロチノイドも抗酸化物質です。

過酸化脂質:
 過酸化脂質とは、脂質が活性酸素により攻撃を受け、酸化された脂質のことで、さらに他の物質を酸化させたり、過酸化脂質自体が細胞や組織に悪影響を与えることが知られています。加齢性黄斑変性症も過酸化脂質が原因のひとつといわれております。

カロチノイド:
 主に植物に存在する、赤・橙・黄色の色素のことで、現在では600種類以上の存在が知られています。代表的な例として、トマトに含まれるリコピン、ニンジンのβ-カロチン、赤ピーマンのカプサンチンが有名です。
 カロチノイドは大まかに、分子中に酸素を持たない炭化水素カロチノイド(カロチン:リコピン、β-カロチンなど)と酸素分子を持つ含酸素カロチノイド(キサントフィル:カプサンチン、ルテイン、ゼアキサンチンなど)の2つに分けられます。これらはそれぞれ体内異なった器官、部位に分布し、いろいろな働きをしていると考えられています。
 カロチノイドは優れた抗酸化作用を有することから、生活習慣病をはじめとする様々な疾病の予防効果が注目されています。
第104回 日本薬理学会関東部会発表要旨
ウシ網膜脂質過酸化反応に対する緑黄色野菜抽出物の抑制効果
中西孝子、相澤宏一、稲熊隆博、安原一 昭和大学医学部第二薬理、カゴメ(株)総合研究所
【目的】ウシ網膜脂質過酸化反応に対する緑黄色野菜抽出物の抑制効果を比較検討する。

【方法】トマト、ニンジンまたは赤ピーマンにhexane:acetone:ethanol:toluene/10:7:6:7溶媒を加え、抽出後減圧下濃縮したものを実験に用いた。抽出物はエタノールで希釈したのち、トマト抽出物はLycopene、ニンジン抽出物はβ-carotene、赤ピーマン抽出物はcapsanthin濃度をHPLCで測定し、使用濃度を確定した。ウシ網膜ホモジネートに5mM FeCl3を加え脂質過酸化物を誘導し、phosphatidylcholine hydroperoxide (PC-OOH)をHPLCで測定した。

【結果】カロチノイド濃度を0.1μMとした時、5 mM FeCl3誘導ウシ網膜PC-OOH量は、トマト抽出物で24.6±9.1%、ニンジン抽出物で33.9±7.3%、赤ピーマン抽出物では41.5±1.8%と有意に減少した(n=4, p<0.01)。一方、カロチノイド単独では、各抽出物と比較して抑制効果は弱かった。

【考察】カロチノイド単独でのウシ網膜脂質過酸化反応抑制効果は弱かったが、トマト、ニンジン、赤ピーマン抽出物は強い抑制効果を示した。Lycopeneや、β-carotene単独では脂質過酸化反応が弱くてもvitamin Eを加えることにより相乗効果があると報告されていることより、緑黄色野菜抽出物にはこれらカロチノイドと相乗的に作用する成分が含まれていると考えられる。網膜にはzeaxanthin、luteinなどカロチノイド色素が含まれ、青色光による網膜光障害を抑制していると考えられる。また、網膜光障害や加齢性黄斑変性症の原因の一つに網膜脂質過酸化反応が関与していると報告されている。従って、緑黄色野菜抽出物は、カロチノイドやその他の成分の脂質過酸化反応抑制効果によりこれらの疾患を予防する可能性が期待される。