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ニンジンの抗アレルギー成分がβ‐カロテンであることを解明 ~継続的な摂取で花粉症の予防や長期的な治療効果に期待~

2004年3月9日

 カゴメ株式会社総合研究所(栃木県那須郡西那須野町)は、国立医薬品食品衛生研究所(穐山浩 食品部第3室長)との共同研究で、実験動物を用いた評価系で見出されていたニンジンジュースの飲用による抗アレルギー作用の活性物質が、β-カロテンであることを明らかにしました。本研究内容は、日本薬学会第124年会(3月29〜31日,大阪・南港地区)において発表致します。なお、この演題は、日本薬学会により「ハイライト演題」の一つに選ばれております。
研究の内容
通常の飼料と、そこにβ-カロテンを添加(2mg/100g)した飼料で飼育しながら、マウスにアレルゲンを投与して、アレルギーを発症するような状態になるよう処置し、アレルギーの発症に対する影響を評価しました。
 その結果、β-カロテンを加えた飼料を摂取したマウスでは、アレルゲンに曝された際の症状や血中ヒスタミン濃度も低い傾向が見られました(図1)。また、アレルゲンに対するIgE抗体の産生量が少なく(図2)、そして、ヘルパーT細胞のバランスも、通常の飼料を与えたマウスに比べ、アレルギー状態のTh2型偏向からTh1型へ調節されていることが明らかになりました(図3)。
期待される成果
以上の実験結果から、β-カロテンを、例えばニンジンジュースのような形で継続的に摂取することにより、ヘルパーT細胞のバランスが調節され、花粉症やアトピー性皮膚炎などの1型(即時型)アレルギー疾患の予防や治療に効果が期待されます。
穐山浩先生(国立医薬品食品衛生研究所)からのコメント
今回の研究結果から、ニンジンジュースの経口摂取による抗アレルギー作用物質の一つが、その中に含まれるβ-カロテンによるものであることが明らかになりました。またβ-カロテン経口摂取は、抗ヒスタミン薬のような一時的な抗アレルギー作用ではなく、免疫バランスを調節する作用があることから予防や長期的な治療効果が期待できると思われます。なお、今回の実験でマウスが摂取したβ-カロテンの量を大雑把にヒトにあてはめると、ニンジンとして、1日当たりおよそ300 g(中サイズ2本程度)に相当します。
アレルギーの発症に対する影響
図の説明
アレルゲンを注射した後の血中ヒスタミン濃度を図1に、アレルゲンに対するIgE抗体量を図2に示しました。β-カロテンを加えた飼料を摂取したマウスでは、1型アレルギーを引き起こすとされるIgE抗体量が、通常飼料を摂取したグループと比較して有意に少なくなっていました。そして、アレルゲンが体内に入った後に肥満細胞から放出されるヒスタミン量も、少ない傾向が認められました(p=0.06)。このような作用にヘルパーT細胞のバランスが関係しているかどうか、実験に用いた動物の脾臓細胞を取り出してきて培養し、ヘルパーT細胞から産生されるサイトカインという物質の量を調べたところ、図3に示したように、β-カロテンを摂取したマウスでは、Th1細胞に由来するIFN-γやIL-2は増加し、Th2細胞から産生されるIL-4やIL-6は減少していました。このことから、β-カロテンは、ヘルパーT細胞のバランスを調整することで、アレルギーになりにくくすることが判りました。これらは、ニンジンジュースを継続的に飲用したマウスで観察されたものと同じ作用です。
<参考資料>
免疫の概略
免疫を司る細胞の中に「ヘルパーT細胞」「B細胞」「肥満細胞」があります。
1「Th1細胞」や「Th2細胞」は「ヘルパーT細胞」の一種で、それぞれが異なった "サイトカイン"という物質を作ります。"サイトカイン"は細胞の増殖等を調節する物質。 「Th1細胞」の作る"サイトカイン"は"インターフェロンγ(IFN-γ)"や"インターロイキン2(IL-2)"。 「Th2細胞」の作る"サイトカイン"は"インターロイキン4(IL-4)"や"インターロイキン6(IL-6)"。
2「B細胞」はサイトカインに対応し、抗体を作ります。 「Th1細胞」のサイトカインに対応して作るのが『IgG2型の抗体』 「Th2細胞」のサイトカインに対応して作るのが『IgE型の抗体』や『IgG1型の抗体』
3「肥満細胞」に『IgE型の抗体』が取り付き、そこに花粉等の抗原が捕まると【ヒスタミン】が放出されます。また、その際にインターロイキン4も放出し、「Th2細胞」を活性化します。  
 *ヒスタミン:粘膜等に炎症を起こす物質。現在市販されている抗アレルギー薬は、このヒスタミンの働きを抑えることで、アレルギー症状を緩和するものが多い。
4 悪循環が発生し、「Th1細胞」と「Th2細胞」のバランスが崩れ、結果的に【ヒスタミン】が 多量に発生します。
5【ヒスタミン】によって、粘膜などが炎症を起こすと、眼のかゆみや鼻水、のどの痛みやくしゃみといったアレルギー症状が現れます。このアレルギーが花粉症などの1型のアレルギーです。
花粉症(1型アレルギー)のメカニズム
花粉症(1型アレルギー)のメカニズム
研究の目的
これまでの研究において、ニンジンジュースを継続して飲用することにより、1型アレルギーを起こしにくい体質になることが、実験動物で判っていました。そこで、その作用が、ニンジンに含まれるどのような成分によるものであるのかを明らかにする目的で、ニンジンに豊富に含まれ、健康の維持に役立つと考えられているβ-カロテンを、飼料に混ぜてマウスに与え、アレルギーに及ぼす作用について評価致しました。
研究のきっかけ
アレルギーは、異物の侵入から体を守るための免疫機能の一部が過剰に作用することによって起こる、生体にとって好ましくない症状です。アレルギー疾患の罹患者数は近年増加しており、現在、日本人の5人に1人は何らかのアレルギーを持っていると言われています。このような、アレルギー増加の要因としては、食生活の変化(動物性たんぱく質やω-6脂肪酸の摂取増加)や住環境の変化(密閉度の上昇によるハウスダストの増加)、環境汚染やストレスの増加などが指摘されています。アレルギーは、そのメカニズムにより1型〜4型の4種類に分類されますが、花粉症や食物アレルギー、アトピー性皮膚炎などの身近なアレルギーの多くは、IgE抗体の異常な産生に起因する1型(即時型)アレルギーです。
  近年、食品の生体調節作用が注目を集めており、免疫系に作用する食品の報告例も数多くなされていることから、まず、アレルギーの予防や治療に有効な植物性食品の検索を行ないました。その結果、ニンジンジュースの継続的な飲用が、花粉症やアトピー性皮膚炎などの1型アレルギーの抑制に有効であることを見出し、5年前の日本薬学会において研究発表いたしました。
用語の説明
カロテノイド:
主に植物に存在する、赤・橙・黄色の色素のことで、現在では600種類以上の存在が知られている。代表的なものとして、トマトに含まれるリコピン、ニンジンのβ-カロテン、赤ピーマンのカプサンチン、みかんのβ-クリプトキサンチンなどがある。
  カロテノイドは、分子中に酸素を持たない炭化水素カロテノイド(カロテン:リコピン、β-カロテンなど)と酸素分子を持つ含酸素カロテノイド(キサントフィル:カプサンチン、ルテイン、クリプトキサンチンなど)の2つに大別される。これらはそれぞれ体内の異なった器官、部位に分布し、いろいろな働きをしていると考えられている。
  カロテノイドは優れた抗酸化作用を有することから、生活習慣病をはじめとする様々な疾病の予防効果が注目 ウれている。
β-カロテン:
緑黄色野菜に多く含まれる橙色の色素。体内において2分子のビタミンAに変換されることから、以前よりプロビタミンAとしての重要性が認識されていたが、近年ではβ-カロテン自体の生理作用が着目されており、抗酸化作用に基づくと考えられる種々の生活習慣病予防作用や紫外線(日焼け)障害に対する予防作用などが報告されている。また、我々の研究により、コレステロールを下げる働きがあることも明らかになってきた。
アレルギー:
 免疫は、体を異物の侵入から守るために人間が備えている精緻な自己防衛機能であり、生命の維持に欠くことができない。しかし、この機能が、生体にとって害にはならないものに対して過剰な反応を示し、人間にとって不快な症状を引き起こすのがアレルギーである。
  アレルギーは1型から4型までの4タイプに分けられるが、花粉症やアレルギー性気管支喘息、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーなど、身近なアレルギーの多くは1型に含まれる。
  1型アレルギーでは、花粉などのアレルゲンに対するIgE抗体が異常に産生され、それが肥満細胞からの起炎物質(ヒスタミン等)の遊離を促進し、くしゃみや鼻水等の症状が現れます。最近、このIgE抗体の産生は、2種類のヘルパーT細胞(Th1細胞とTh2細胞)によって調節されていることが明らかになってきました。この2種類のヘルパーT細胞のバランスが、Th2型優位に偏るとIgE抗体が過剰に産生され、1型アレルギー疾患が発症します。
 5型アレルギーは、マクロファージが異物を持った細胞を貪食(どんしょく:自分の中に取り込んで無害化すること)する際に出る酵素によって、周辺の組織に障害を起こすもので、自己免疫性溶血性貧血などがこれに相当する。
  3型はアレルゲンと抗体が結合した免疫複合体が、体内のあちこちに沈着するもので、腎臓の糸球体に沈着する糸球体腎炎などが含まれる。
  4型はキラーT細胞が正常細胞も壊してしまうもので、ツベルクリン反応や化粧品などによる接触性皮膚炎がその代表である。
Th1/Th2バランス
  免疫を担当する細胞の中に、ヘルパーT細胞と呼ばれるものがある。この細胞は免疫機能を活性化する役割を持つが、その種類によって、活性化する免疫機能が異なっている。Th1細胞は、ウイルス感染細胞やガン細胞などを発見して、キラーT細胞やNK細胞などが直接攻撃する機能を活性化する。一方、Th2細胞は、B細胞によるIgEの産生を活性化する。Th1とTh2は、どちらかが高まればどちらかが抑制されるという、相反する関係にある。Th2細胞が優勢になると、IgEの産生が促進されることから、アレルギーを起こしやすくなる。よって、Th1/Th2バランスをTh1優位にすることができれば、アレルギーの発症を抑えることができると考えられる。
サイトカイン
  サイトカインとは、細胞が産生する蛋白質の一種で、細胞の増殖・分化・機能発現を調節する作用を有する。Th1細胞からは、インターフェロンγ(IFN-γ)やインターロイキン2(IL-2)といったサイトカインが放出され、キラーT細胞やNK細胞の作用を活性化するとともに、Th2細胞の働きを弱める。一方、Th2細胞から放出されるIL-4やIL-6といったサイトカインは、B細胞によるIgEの産生を促すとともに、Th1の働きを抑制する。
脾臓
  脾臓は、機能が低下した赤血球を、マクロファージを用いて除去する機能を持つとともに、体内で一番大きなリンパ性器官であり、リンパ球(T細胞やB細胞)を大量に作り出すことにより、免疫にも深く関与している。また、抗体の一種であるIgGに作用して、タフトシンという、4つのアミノ酸が連なったペプチドを遊離させることによって、白血球の食作用(異物除去作用)を増強する。脾臓細胞は、リンパ球産生能が高いことから、免疫に関連した細胞を用いた実験に用いられることが多い。
ヒスタミン
  IgEが取りついた肥満細胞から放出される起炎物質の一つ。この物質によって、粘膜などが炎症を起こすと、眼のかゆみや鼻水、喉の痛みやくしゃみといった、アレルギー症状が現れる。現在市販されている抗アレルギー薬には、このヒスタミンの働きを抑えることで、アレルギーの症状を緩和するものが多い。
日本薬学会第124年会 発表要旨
 β-カロテン経口摂取による即時型アレルギー抑制作用
穐山浩1、佐藤雄嗣1、菅沼大行2、渡邉敬浩1、長岡(浜野)恵1、稲熊隆博2、
合田幸広1、米谷民雄1(1国立衛研、2カゴメ総研)
【目的】
我々は、すでにマウスへのニンジン汁経口摂取が1型アレルギー反応を抑制することを報告した。本研究では、活性成分を明らかにする目的で、ニンジン汁中に含有量の高い カロテンに着目し、オボアルブミン(OVA)で免疫を施したマウスに カロテンを経口摂取させ、血清中OVA特異的抗体価及び惹起後の体温やヒスタミン濃度を測定した。さらにそのメカニズムを解明する目的で、in vitroにおいて脾細胞より産生される各種サイトカイン量の影響も検討した。
【方法】
6週令BALB/cマウスにOVAを水酸化アルミニウムゲルと共に腹腔内投与(1次免疫)し、10日後に同様に投与(2次免疫)を施した。2次免疫から1週間後に血清中OVA特異的抗体価(IgE,IgG1,IgG2a)を測定した。その後、10 mg/mL OVA 200μLを腹腔内投与して、能動的全身性アナフィラキシーショック(ASA)を誘導し、1分毎に体温を測定した。次いで惹起後7分で全採血を行い、血清中ヒスタミン濃度測定を行った。また脾細胞懸濁液(5×106 cells/mL)を調製後、100μg OVA/well共存下、37℃、CO2濃度5%の条件下で3日間培養し、脾細胞より産生された培養上清中のサイトカイン濃度をELISAで測定した。さらに脾細胞懸濁液からRNAを精製し、RT後、Real-time PCR法によりIFN-γのmPNAを分析した。 カロテンの吸収の指標として、肝臓中 カロテン量をHPLCで測定した。 カロテンはMF粉末飼料に混合(2 mg/100g)して、1次免疫の2週間前から自由摂取させた。
【結果、考察】
血清中OVA特異的IgE抗体価およびIgG1抗体価において、β-カロテン摂取群は対照群に比べて有意に低かった。一方IgG2a抗体価において、β-カロテン摂取群は対照群に比べ、有意に高値であった。ASA誘導後、β-カロテン摂取群では対照群と比較して、体温低下率及び血清中ヒスタミン濃度が有意に低値であった。脾細胞採取後のIFN-γのmRNA量はβ-カロテン摂取群が対照群に比べ、有意に増加していた。またOVA共存下で培養した脾細胞より産生されたサイトカイン量を測定したところ、β-カロテン摂取によってTh1型サイトカインであるIFN-γ産生は有意に促進され、Th2型サイトカインであるIL-4, IL-5等の産生は有意に抑制された。以上の結果より、β-カロテン摂取は、免疫によりTh2側にシフトしたTh1/Th2バランスをTh1側へ調節することで、即時型アレルギー反応を抑制することが示唆された。