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タバコの煙による肺気腫の予防にトマトジュースの飲用が有効であることを動物試験で確認 ~ 順天堂大学医学部、カゴメの共同研究 ~

2006年1月13日

 カゴメ株式会社総合研究所(栃木県那須塩原市)は順天堂大学医学部(笠木聡先生、瀬山邦明先生、福地義之助先生)との共同研究により、老化促進モデルマウスを用いて、タバコの煙による肺気腫の予防にトマトジュースの飲用が有効であることを動物試験で明らかにしました。  
 なお、本研究内容は、米国の専門誌である「American journal of physiology. Lung cellular and molecular physiology」誌に投稿し、掲載されております。
 
■共同研究者 順天堂大学医学部 瀬山邦明先生のコメント
 喫煙が原因で起こる肺の生活習慣病とも言える慢性閉塞性肺疾患(COPD)は60〜70歳代の高齢者に多い疾患で、加齢と密接に関係していると考えられます。タバコ煙中にはたくさんのオキシダントが含まれ、肺は酸化ストレスに晒されますが、酸化ストレスと老化現象にも密接な関連性が指摘されています。このような観点から、トマトジュース中に多量に含まれ優れた活性酸素消去能をもつリコピンに着目しました。すなわち、肺の老化促進因子を背景に持ち喫煙により肺気腫が生じるモデルマウスにリコピンを豊富に含むトマトジュースを投与したら、喫煙をしても肺気腫の発生を防ぐことができるのではないかと考え、私達のグループで実験を行いました。リコピンは様々な疾病予防作用が期待されており、いくつかの疫学調査や小規模な介入試験の結果から、トマトやリコピンの摂取が喘息などの肺疾患の治療や管理に有用であることが示唆されております。今回、モデル動物を用いて、トマトジュースが喫煙による肺気腫を予防する効果をもつことを確認しましたが、ヒトでも同様の結果が得られるかは今後の課題です。
■研究の背景
 厚生労働省が毎年行なっている「人口動態統計」の平成16年のデータによると、日本人の死因の第10位に、慢性閉塞性肺疾患(COPDと略します)があげられています。実際に治療を受けている患者数以上に潜在的な罹患者が多くいると考えられており、2001年に発表された大規模疫学調査研究の結果では、日本におけるCOPD患者は約530万人と推定されています。この疾患は、有害微粒子の吸入により、気道や末梢肺組織に慢性的な炎症が起き、痰のからみや気管支のむくみ(すなわち慢性気管支炎)、肺胞の破壊(すなわち肺気腫)が起こる病気で、その最大の原因は喫煙です。そのため、特に男性に多く、死亡者数でみると男性では女性の3倍も高くなっています。また、一度壊れた肺胞は元に戻らないことから、完全に治癒させることができないという特徴もあります。
 ところで、トマトには抗酸化作用を示すリコピンという赤い色素が含まれており、活性酸素が原因の様々な疾病を予防する可能性が指摘されております。また、トマトジュースの飲用が気管支喘息の症状を改善することを、これまでに報告してきております。そこで、トマトの摂取が喫煙により生体内で過剰に発生する活性酸素を消去することで、肺気腫などの疾病の予防ができるのではないかと考え、本実験を実施いたしました。
■研究概要
目的トマトジュースの飲用がタバコの煙が原因の肺気腫に対し、どのような影響を与えるか評価する
     ことを目的として研究を行ないました。

内容加齢にともない肺の構造や機能に変化が確認されるモデルマウス(SAMP1と略します)に、12週
     齢の時点で1.5%のタバコの煙(微粒子状物質23.9mg/m3)を1日に30分間、1週間に5日間、8週
     間にわたって吸引させました。飼育期間中は、一つの群(対照群)には水道水を、もう一方の群
     (トマトジュース群)には水道水のかわりに2倍希釈したトマトジュース(リコピン含量5mg%)を自由
     摂取させ、肺の構造や機能に関連する指標の分析を行ないました。

結果SAMP1にタバコの煙を吸引させたところ、平均肺胞径(mean liner intercepts :MLI)及び破壊指
    標(destructive index :DI)は上昇しましたが、これらの指標は、トマトジュースを飲用することで
    抑制されました(図1)。



(図1の説明)
  MLIが大きくなると平均肺胞径が大きくなり、気腔が拡大したことを示します。DIは、肺の損傷を示す指標であり、この値が高いほど損傷されていることを意味します。従って、MLIとDIがともに大きい場合は、肺胞が損傷して破壊された肺気腫であることを示唆します。 図1の左で、トマトジュースの摂取をしていない群に注目すると、空気を暴露した群と比較すると、タバコを暴露した群は有意にMLIが上昇しており、気腔が拡大したことを意味します。同時に右図ではDIが有意に大きくなっているので、肺胞の破壊によりもたらされた気腔の拡大、すなわち肺気腫であることが分かります。一方で、タバコに暴露していてもトマトジュースを摂取する群では、有意にMLIが低く、DIも低くなっているので、タバコに暴露していてもトマトジュースを摂取する群では、肺気腫の発生を抑制したことを意味します。

 MLIやDIなどの指標以外にも、トマトジュースの摂取は、有意に肺細胞のアポトーシスを減少させるとともに、肺組織の構築を維持していく上で大切な増殖因子である血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)レベルを上昇させることが確認されました。
■用語の説明
肺気腫:肺気腫は肺を構成する組織である肺胞(ぶどうの房の形)に炎症が起こり、肺胞の壁が破壊されて気腔が拡大した状態をさす病理学的な言葉。一度壊れた肺胞は元に戻ることはない。肺気腫が高度になると肺は弾力性がなくなって膨らんだままの状態になり、空気の出し入れが困難になる。 

慢性閉塞性肺疾患(COPD):有毒な粒子やガスの吸入によって生じた肺の炎症反応に基づく進行性の気流制限を呈する疾患。気流制限は息をうまく吐き出せない状態であり、慢性的な気管支の炎症により気道が狭くなったり、肺気腫により肺胞の弾力性が低下したりすることにより生じ、労作性の呼吸困難を引き起こす。原因の多くが喫煙であるため、別名「タバコ病」とも呼ばれるが、受動喫煙、環境汚染、職業上の環境などが原因の場合もある。

SAM(The senescence-accelerated mouse):老化促進モデルマウスのことで、通常のマウスと比べて老化が早いモデル動物である。今回使用したP1という種類は、加齢に伴って構造的及び機能的に肺の変化が認められるので、肺の老化に関する齧歯類のモデル動物となっている。

平均肺胞径(mean liner intercepts :MLI):肺実質を構成する肺胞の平均的なサイズの指標。肺胞の破壊を伴いMLIが大きくなっていれば、肺気腫を示唆するが、破壊がなければ単に肺胞が拡張したことを意味する。

破壊指標(destructive index :DI):肺実質を構成する肺胞の破壊の指標であり、肺胞および肺胞管の総スペースのうちで破壊された部分の比率を示す。高いほど損傷が激しいことを示す。

アポトーシス:あらかじめプログラムされた細胞死、自発的な細胞死

血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF):血管内皮細胞に働き、細胞の増殖を促進させる。
【参考資料】投稿した論文の要旨の和訳

老化促進モデルマウスP1において、慢性的なタバコ煙暴露によって引き起こされる肺気腫をトマトジュースが抑制する
 
老化促進モデルマウス(SAM)は、正常な発達と成熟の後に自然発症的に老化が促進するモデル動物である。SAMP1は、加齢に伴って構造的及び機能的に肺の変化が認められ、肺の老化に関する齧歯類のモデル動物となりうる。我々は、肺の老化が肺気腫の発症の重要な内因的プロセスであり、短期間のタバコの煙への暴露でさえも肺気腫を発症させうると考えた。12週齡の時点で、SAMP1は普通の空気ないしは1.5%のタバコの煙(TPM 23.9 mg/m3)を、1日に30分間、1週間に5日間、8週間にわたって吸引させた。肺の平均肺胞径(mean liner intercepts :MLI)及び破壊指標(destructive index :DI)は、タバコの煙への暴露で有意に上昇した (空気 vs. タバコ (平均±標準誤差); MLI, 68.76±0.69 vs. 75.34±1.70 μm, p<0.05 、DI, 8.61±0.38 vs. 16.18±1.54 %, p<0.05)が、通常の老化を示すSAMR1では、そのような変化は認められなかった。一方、タバコの煙による肺気腫は、トマトジュースの形でリコピン(強力な抗酸化物質)を摂取させることで抑制された(MLI: タバコとリコピン、もしくはリコピンなし(平均±標準誤差), 62.87±0.8 vs. 66.90±1.33μm, p<0.05)。タバコの煙への暴露は、気管や肺胞壁細胞のアポトーシスや活性型カスパーゼ3を増加させるとともに、肺組織中のVEGF量を減少させる。しかし、トマトジュースの摂取は、有意にアポトーシスを減少させるとともに、組織中のVEGFレベルを上昇させた。我々は、SAMP1は、タバコ煙暴露による肺気腫の有用なモデルであり、病態生理学的な機序及び肺気腫の介入治療について検討する上でとても役立つと結論づけた。