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リコピンが脳神経細胞を保護する可能性を示唆 ーカゴメ、名古屋文理大学短期大学部、藤田保健衛生大学との共同研究ー

2007年9月25日



カゴメ株式会社総合研究所(栃木県那須塩原市)は、名古屋文理大学短期大学部(芳本信子教授)、藤田保健衛生大学(藤田公和先生(桜花学園大学教授))との共同研究で、動物試験でリコピンの摂取が、脳神経細胞を保護する可能性を見いだ出しました。なお、本研究内容はNeuro2007*(9月10日〜12日、パシフィコ横浜)において発表致しました。

*第30回日本神経科学大会、第50回日本神経化学会大会、第17回日本神経回路学会大会 合同学会

■研究の背景
脳の血管が詰まり、血液が供給されない状態を脳虚血といいます。脳への血液供給が不足すると、酸素や栄養素などの生存に必須な物質が欠乏します。そのため、脳の機能が低下し、手足の痺れやめまいなどの障害があらわれます。 血管の詰まりが一時的で、血液が再び流れ出すと、その障害は回復しますが、その際ときに多量の活性酸素が発生します。この活性酸素が脳にさらなる傷害を与える可能性が考えられます。一方、トマトに含まれるリコピンは強い活性酸素消去能を持つカロテノイドの一種です。したがって、リコピンが脳虚血後に発生する活性酸素を消去することで、何らかの効果を期待することができると考え、検証しました。ます。

■研究概要
≪目的≫
脳虚血の中でも、血管の詰まりが一時的で、数分後には血液が再び流れ出すような症状を一過性脳虚血といいます。 一過性脳虚血が起こった数日後から、記憶に関わる海馬の神経細胞が死滅する(アポトーシス)という病変がみられます。一過性脳虚血後の海馬のアポトーシスには、活性酸素が関与していると考えられています。強い活性酸素消去能を持つリコピンの摂取が一過性脳虚血から脳神経細胞を保護する可能性が考えられます。そこで、リコピンの摂取が、一過性脳虚血後の海馬のアポトーシスに与える影響を評価致しました。
≪内容≫
一過性脳虚血のモデルとして用いられているスナネズミを2群(n=10)にわけ、それぞれリコピンを含む飼料もしくは通常飼料を約2ヶ月間摂取させました。スナネズミの頸動脈を10分間縛り、脳虚血を起こさせた後に再び血液を循環させました。脳虚血後、1,3,7日後に海馬を摘出しました。摘出した海馬のアポトーシスを評価するために、その指標であるアポトーシス発現抑制遺伝子bcl-2のタンパク質量をウエスタンブロット法により測定(図1)しました。 また、アポトーシスを直接的に発症させるcaspase-3の活性を測定(図2)しました。さらに、一過性脳虚血後の海馬における神経細胞の状態を視覚的に捉えるために、クリューバー・バレラ染色により神経細胞を染色(図3)しました。





図1.一過性脳虚血後のbcl-2タンパク質量



図2.一過性脳虚血後のcaspase-3活性値




図3.一過性脳虚血後の神経細胞のクリューバー・バレラ染色図

図1は海馬におけるbcl-2タンパク質量の測定結果を示しています。一過性脳虚血後、リコピンを摂取したスナネズミの海馬では、通常飼料の摂取よりbcl-2タンパク質が有意に増加しています。リコピンを摂取したスナネズミの海馬では、bcl-2タンパク質の増加により、アポトーシスが抑制されている可能性が考えられました。そこで、アポトーシスを実行するcaspase-3の活性を測定しました。図2は海馬におけるcaspase-3活性の測定結果を示しています。通常飼料を摂取したスナネズミは、一過性脳虚血後7日目にcaspase-3の活性が増加し、アポトーシスが進行しています。しかし、リコピンを摂取したスナネズミでは、caspace-3の活性が有意に抑制されています。リコピンを摂取したスナネズミの海馬では、アポトーシスが抑制されていることが考えられました。
図3は一過性脳虚血後、7日目の海馬における神経細胞を染色した結果を示しています。(A)通常飼料を摂取、一過性脳虚血を起こしていないスナネズミの海馬、(B)通常飼料を摂取、一過性脳虚血を起こしたスナネズミの海馬、(C)リコピンを摂取、一過性脳虚血を起こしたスナネズミの海馬をそれぞれ染色した図です。この細胞群は一過性脳虚血によってアポトーシスを起こします。通常飼料の摂取では、ほとんどの神経細胞がアポトーシスを起こしています(B)。しかし、リコピンを摂取したスナネズミは、神経細胞の生存がみられます(C)。リコピンを摂取することで、一過性脳虚血後の海馬でアポトーシスが抑制されていることが考えられました。

本評価で、リコピンの摂取が、一過性脳虚血後の海馬のアポトーシスを抑制し、脳神経細胞を保護する可能性を見い出だしました。一過性脳虚血後の海馬のアポトーシスは、脳血管障害による認知症の原因の一つとされており、考えられています。トマトなどのリコピンを含む野菜の摂取は、このような疾患に好影響を与える可能性が考えられます。

共同研究者 名古屋文理大学短期大学部 芳本信子教授のコメント
神経細胞が失われることで発症する神経変性疾患には、認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症などがあげられます。我々はこれまでに、動物試験でリコピンの摂取により、運動神経変性疾患の発症が遅延することを報告しています。今回、リコピンの摂取が、一過性脳虚血から神経細胞を保護する可能性を見いだ出しました。一過性脳虚血後の海馬のアポトーシスは、脳血管障害による認知症の原因の一つと考えられているため、リコピンの摂取により、神経細胞を保護できる可能性は非常に意義あることだと考えます。リコピンの摂取が、神経変性疾患に影響を与える可能性が期待できます。

共同研究者 藤田保健衛生大学 藤田公和先生のコメント
リコピンは強力な活性酸素消去能を持つことが知られています。様々な疾患に対するリコピンの作用が研究されていますが、脳神経系への作用はあまり研究されていません。今回の評価は、スナネズミに一過性脳虚血を起こさせ、海馬で起こるアポトーシスに対するリコピン摂取の効果を生化学的、生理学的に評価したものです。本結果は、リコピンの摂取が、遺伝子レベルで脳虚血によるアポトーシスの阻害因子として働くことを強く示唆しています。

■用語の説明
カロテノイド:
主に植物に存在する、赤・橙・黄色の色素で、カロテノイドのうちβ-カロテンなどは体内でビタミンAに変換されます。トマトにはリコピン(赤色)、ニンジンには β-カロテン(橙色)、赤ピーマンにはカプサンチン(赤色)が特徴的に含まれています。最近は、抗酸化作用による疾病予防作用が注目されています。

リコピン:
カロテノイドの一つで、トマトに多く含まれる赤い色素。脂溶性であることから油とともに摂取すると吸収性が高まります。カロテノイドの中で抗酸化作用が最も高く、活性酸素種が原因と考えられる様々な疾病の予防作用が期待されています。疾病の予防の観点から、これらの抗酸化物質を効率よく吸収し、体内のリコピン濃度を高めることが重要だと考えられます。

脳虚血:
脳の血管の閉塞により、脳への血液が不足することで、酸素や栄養素などの供給が断たれる状態をいいます。脳梗塞の初期症状といわれています。一過性の脳虚血後では、エネルギー代謝、グルコース代謝、電気生理学的活動などの必要な機能が回復するにもかかわらず、海馬のCA1領域において極めて遅れてアポトーシスが進行するという病変が起こります。

海馬:
脳の部位の一部で、記憶や学習に関わる器官として知られています。虚血や無酸素症に対して非常に脆弱で、アポトーシスが起こりやすい部位です。そのため、認知症などの神経変性疾患の発症にも大きく関与しています。

アポトーシス:
遺伝子によって制御されている細胞死のことをいいます。発生や生存において、不要な細胞を積極的に死に導き、生体の調整を行なう機構です。がんや自己免疫疾患を始め、アルツハイマー病などの神経変性疾患などの発症に関与しています。

bcl-2:
アポトーシスは様々なシグナル伝達機構により制御されています。その一つにミトコンドリアからシトクロムcが放出され、下流のシグナル伝達が活性化することで起こるアポトーシスがあります。bcl-2はミトコンドリアの膜透過性を制御し、シトクロムcの放出を抑えることでアポトーシスを抑制します。bcl-2タンパク質の増加は、アポトーシスの抑制を示しています。

caspase-3:
アポトーシスを実行するカスパーゼファミリーの最下流に位置する酵素です。活性が増加することによって、直接的にアポトーシスを引き起こす引き金の役割を担っています。caspase-3活性の低下は、アポトーシスの抑制を示しています。

ウエスタンブロット法:
サンプル中に多種類存在するタンパク質の中から、特定のタンパク質を検出する方法です。ゲルを用いた電気泳動によってタンパク質をサイズ毎に分離した後、メンブレン(膜)にタンパク質を転写し、目的のタンパク質と結合する抗体を用いて、発色により検出します。

クリューバー・バレラ染色:
神経細胞を染色する方法です。神経細胞は核のある細胞体、他の細胞からの刺激を入力する樹状突起、出力する軸索の3つの部分で主に構成されています。クリューバー・バレラ染色は、軸索の周囲を覆っている髄鞘を青色に、細胞体内の核、ニッスル小体を紫色に、核小体を深青色に染色することで、脳組織の神経細胞を視覚的に判別できるようにします。



【資料】学会発表の要旨

Lycopene uptake to Mongolian gerbilattenuates apoptosis in hippocampus induced by ischemia

Kimikazu Fujita1 NobukoYoshimoto2 Toshiaki Kato3 Masataka Yamane4 Takahiro Inakuma4 Yutaka Nagata1 Eiichi Miyachi1

1 Dept. Physiol.Sch. Med. Fujita Health Univ. Toyoake Aichi Japan. 2 Dept. Nutrition and Food Sciences Nagoya Bunri Univ. Col. 3 Dept. Med. Tec. Fujita HealthUniv. Col. 4 Research Institute KAGOME Co. Ltd.

Lycopene from plant origin is known to have an antioxidant action in tissues. Applicationof transient ischemia / recirculation to gerbils produced apoptosis inhippocampus after several days. We examined antioxidant effect of lycopene administration to the animal expecting to findeffect of lycopene to attenuate the progress ofapoptosis caused by ischemia. Weanings at 21st days after birth were fed on lycopene containing MFfood (5mg/100g) freely and then we burdened cerebral ischemia to the animal.Amount of bcl-2 was decreased in the animal without lycopene intak e whereas it was increased clearly in lycopene administered after surgery. Increased TUNEL positive cells after ischemia reducedin lycopene treated animal after a week. Theseexperimental results strongly suggest that lycopene can act as an inhibitory modulator against apoptosis in neurons caused byischemia even at genetic level.



【資料】学会発表の要旨の和訳

スナネズミのリコピン摂取は脳虚血によって誘導される海馬の
神経細胞死を抑制する

藤田公和1)、芳本信子2)、加藤寿章3)、山根理学4)、稲熊隆博4)、永田豊1)、宮地栄一1)
1)藤田保健衛生大学・医学部・生理、2)名古屋文理大学短大部、3)藤田保健衛生大学短大部、4)カゴメ(株)総合研究所


植物由来のリコピンは強力な抗酸化作用を持つことが知られている。本研究では離乳直後からリコピン含有飼料を摂取させたスナネズミに一過性の脳虚血・再灌流を負荷して遅発性神経細胞死を起こさせた。そして、海馬神経細胞のアポトーシス関連遺伝子タンパク質量を測定することで、リコピンによるアポトーシスの抑制効果について検討を行った。生後21日で離乳したスナネズミはリコピン含有MF飼料(5mg/100g)で飼育後、脳虚血を負荷した。リコピンを摂取していない対照群ではbcl-2タンパク質量は減少したが、リコピン摂取群では明らかに増加した。リコピン摂取群は脳虚血後7日でTUNEL陽性細胞数が減少した。これらの実験結果は、リコピンが遺伝子レベルで脳虚血による神経細胞死の阻害因子として働くことを強く示唆している。