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紫人参にアセチルコリンエステラーゼ活性阻害作用を確認 ~アルツハイマー型認知症の改善に期待~ カゴメ、野菜茶業研究所の共同研究

2008年11月17日



 カゴメ株式会社経営企画本部総合研究所 (栃木県那須塩原市)は、独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所(三重県津市:所長 望月龍也)との共同研究で、紫人参のアセチルコリンエステラーゼ活性阻害作用を確認しました。今回の研究成果より、紫人参のアルツハイマー型認知症の改善が期待できます。本研究内容は、第13回 日本フードファクター学会総会・学術集会(11月17〜18日 タワーホール船堀)において発表いたします。


■カゴメ研究者のコメント
 紫人参に、アルツハイマー型認知症の治療薬と同様のアセチルコリンエステラーゼ活性阻害作用が確認されました。この作用をもたらす物質が何かはまだ不明ですが、紫人参にはアントシアニンという紫色の色素が含まれていることから、アントシアニンによるものではないかと考えられます。紫人参を摂取することで、アルツハイマー型認知症での脳機能の維持、症状の進行抑制が期待できます。


■研究の背景
 近年、生活習慣病予防の観点から、食生活の改善が重要視されており、特に野菜の摂取は注目されている項目です。厚生労働省が発表した21世紀における国民健康づくり運動「健康日本21」では、野菜を一日350g以上摂取することを目標としています。しかし、平成18年の「国民健康・栄養調査」結果では、野菜摂取量の平均は303.4gで、「健康日本21」が定める目標値に対し大きく不足しています。
 野菜にはさまざまな健康に寄与する成分が含まれていることが近年の研究で明らかになってきていますが、カゴメでは特に野菜の色に注目し、赤、黄・橙、緑、紫の4色の野菜の機能性について研究を進めてきました。その中で、紫色の野菜に含まれるアントシアニンは、高い抗酸化能を有していることが報告され、その効用として眼や肝臓に対する報告があります。我々は、紫野菜の摂取による効果の中で、これまで報告の少ない脳神経に関する機能に着目しました。
 神経細胞に与える紫野菜の影響を検討すべく、アルツハイマー型認知症改善機能の評価に用いられるヒト神経芽細胞腫を用いた試験系にて、紫人参のアセチルコリンエステラーゼ活性阻害作用を評価しました。


■研究概要

≪目的≫
紫人参が神経細胞でのアセチルコリンエステラーゼ活性に与える影響について解明するため、ヒト神経芽細胞腫SK-N-SHを用い、アセチルコリンエステラーゼ活性を評価しました。

≪方法≫
ヒト神経芽細胞腫SK-N-SHをFBS10%添加F12/E-MEM(1:1)培地で培養し、評価に用いました。被験物質として、アントシアニンを多量に含む紫人参を用いました。紫人参は乾燥粉末を用い、その20%エタノール抽出物を調製しました。無血清培地に容量を変えて添加し、その培地で1日培養後の細胞中のアセチルコリンエステラーゼ活性を測定しました。アセチルコリンエステラーゼ活性はEllman法、およびELISA法で測定しました。ポジティブコントロールとして、既にアセチルコリンエステラーゼ活性阻害作用が確認されているメチルネオスティグミンを用いました。

図 紫人参のアセチルコリンエステラーゼ活性への影響
図 紫人参のアセチルコリンエステラーゼ活性への影響

≪結果≫
図は、紫人参あるいはポジティブコントロールを添加した際のアセチルコリンエステラーゼ活性を示しています。紫人参の添加により、アセチルコリンエステラーゼ活性は有意に減少し、活性阻害作用を確認いたしました。また、添加する紫人参の量を増やしたところ、アセチルコリンエステラーゼ活性阻害作用が強くなる傾向が確認されました。
よって、紫人参はシナプス間隙(かんげき)でのアセチルコリンによる情報伝達を促進することによって、アルツハイマー型認知症での神経伝達を促進する可能性が示されました。
今後は作用物質を明らかにすると共に、メカニズムの解明に取り組んでいく予定です。


■ 用語の説明

紫人参
ヨーロッパで栽培、消費されている人参で、紫色の色素であるアントシアニンを多く含みます。

アントシアニン
ポリフェノールの一種です。pHにより色が変わり、一般的に酸性で赤紫、アルカリ性で青紫になります。ブルーベリーやカシス、ナスの皮などに含まれており、活性酸素を消去する抗酸化能を持っています。

活性酸素
酸素分子から派生する、酸化力が強い物質の総称で、体中では細菌に対する攻撃やエネルギー産生に関与していますが、過剰に存在すると生活習慣病の原因になります。

抗酸化能
活性酸素からの攻撃を守る力です。抗酸化物質は活性酸素と反応し、反応性の低い物質に代わることで、脂質やタンパク質などを活性酸素の攻撃から守る働きを持っています。

アルツハイマー型認知症
認知症の一種で、記憶や学習といった脳機能が低下する病気です。治療法は様々なものがありますが、アセチルコリンエステラーゼ活性阻害剤はその代表的な治療剤の1つです。

アセチルコリン
神経細胞同士が刺激を電気信号として伝えることにより、手足の感覚を脳に伝えたり、脳での記憶や思考を行っています。神経細胞の間はシナプス間隙と呼ばれ、神経細胞から分泌された神経伝達物質が、次の神経細胞に刺激を伝えます。この神経伝達物質にはいくつかの物質がありますが、その1つがアセチルコリンです。

アセチルコリンエステラーゼ活性
アセチルコリンは、神経伝達物質としての役割を終えた後、アセチルコリンエステラーゼという酵素により分解されます。アルツハイマー型認知症では、神経細胞に障害が起こり、神経刺激が伝わりにくい状態となっています。アセチルコリンエステラーゼ活性を阻害することにより、シナプス間隙の神経伝達物質の量が増加し、神経刺激が伝わりやすい状態になると考えられています。



【資料】学会発表の要旨

紫人参のアセチルコリンエステラーゼ活性阻害作用
林宏紀1、山本(前田)万里2、稲熊隆博1
1:カゴメ総研、2:農研機構・野菜茶研

【目的】アセチルコリン(ACh)は、神経伝達物質として自律神経系のシナプス間の情報伝達を担っている。軸索から放出されたAChは、シナプス後受容体に作用したあと、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)によって加水分解される。AChEの活性を阻害することで、シナプス間隙のACh濃度が上昇するため、神経情報伝達が促進される。これを利用し、アルツハイマー型認知症の治療薬としてAChE阻害薬が使用されている。我々は、同メカニズムに着目し、アントシアニンを多量に含む紫人参を用いてAChE阻害活性評価を行った。

【方法】ヒト神経芽細胞腫SK-N-SHをFBS10%添加F12/E-MEM(1:1)培地で培養し、評価に用いた。被験物質として、アシル化アントシアニンを多量に含む紫人参を選定した。紫人参は乾燥粉末と、搾汁後濃縮した濃縮汁を用い、それぞれの20%エタノール抽出物を無血清培地に添加し、1日培養後の細胞中のAChE活性を測定した。AChE活性はELISA法で測定した。紫人参はエタノールで抽出、希釈後、シアニジンを標品としてアントシアニン濃度を比色法で定量した。

【結果】試験に用いた乾燥粉末、濃縮汁のアントシアニン濃度は、シアニジン当量としてそれぞれ0.69%、0.85%(w/w)であった。紫人参乾燥粉末の添加によりAChE活性は阻害され、阻害の強さと紫人参の容量依存性が確認された。また、濃縮汁を用いた試験でもAChE活性阻害作用がみられ、乾燥粉末と同様に、搾汁後のジュースにも同様の作用を有することが明らかとなった。ポジティブコントロールとして用いた硫酸メチルネオスティグミンほどの活性阻害は確認されなかったが、紫人参にもAChE活性阻害作用によるシナプス間の情報伝達促進が示唆された。今後は作用物質の同定、メカニズムの解明に取り組んでいく。