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リコピンのシワ予防、美白効果のメカニズムを解明 ーカゴメ、名古屋市立大学の共同研究ー

2008年6月19日



カゴメ株式会社総合研究所 (栃木県那須塩原市)は、名古屋市立大学(愛知県名古屋市)森田明理教授と共同研究でリコピンがコラーゲン量を増加する効果を、また、単独の研究でリコピンがメラニン生成を抑制する効果を明らかにしてきました。今回は、それらのメカニズムの一端について明らかにしました。本研究内容は、第15回 国際カロテノイド会議(6月22〜27日、沖縄)において発表いたします。


■ 共同研究者 名古屋市立大学 森田明理教授のコメント
紫外線を長期間浴びることで、シワやシミなどができやすくなります。これを光老化と呼んでいます。光老化には紫外線を浴びることで生じる活性酸素が大きく関係していると考えられています。そのため、活性酸素を消去する物質である抗酸化物質に光老化予防効果が期待されています。
これまで、リコピンにコラーゲン量を増加させる効果があることを発見しました。今回は、そのメカニズムの一端を明らかにしました。今回明らかになったのは、コラーゲン合成を抑制する細胞内伝達物質であるSmad7の遺伝子発現を、リコピンが抑制することです。Smad7は紫外線により増加することが知られており、これはコラーゲン合成低下の原因の1つとして考えられています。今回の結果は、リコピンがコラーゲン量を増加させる効果を解明する糸口になると考えられます。今後さらに検討を進めていきたいと思っています。


■ 研究の背景
シワやシミなどの皮膚の老化現象は、自然老化と光老化にわけられます。自然老化は加齢が主な原因であり、光老化は紫外線です。皮膚の老化現象の約80%は、光老化によるといわれています。顔や首など絶えず紫外線にさらされている部位ほど早くシミが現れたり、深いシワができるのが光老化の特徴です。
これまでの研究で、リコピンにはシワ予防に関係があるコラーゲンの量を増加する効果があることと、シミの原因となるメラニン生成を抑制する効果があることを明らかにしました。今回はそれらのメカニズムを検討しました。


■ 研究概要
【リコピンがコラーゲン量を増加させるメカニズムの解明】

目的
コラーゲンは細胞内で合成され、その過程においては様々な細胞内伝達物質がコラーゲンの合成を調節しています。Smad7は、その中でもコラーゲンの合成を抑制する働きをしています。今回はヒト皮膚線維芽細胞を用いてリコピンがSmad7の遺伝子に与える影響を検討しました。

内容
実験にはヒトの真皮に存在し、コラーゲンを合成するヒト皮膚線維芽細胞を用いました。細胞に0.1μMとなるようにリコピンを添加し、29時間培養を行いました。培養終了後、細胞より遺伝子を抽出し、リアルタイムPCRにてSmad7の遺伝子発現を確認しました。


図1 Smad7の遺伝子発現に与える影響


図1に結果を示しました。遺伝子の発現はリコピンを添加しないときを1とした比で表しています。リコピンは、Smad7の遺伝子発現を有意に抑制することを確認しました。Smad7の遺伝子発現が抑制されるということは、コラーゲンの合成を抑制する物質が少なくなり、その結果としてコラーゲン量が増えることが期待できます。今後はどのような経路でリコピンがSmad7の発現を抑制したのかなど、さらなる検討を進めていきます。

【リコピンがメラニン生成を抑制するメカニズムの解明】

目的
メラニンの生成は、皮膚のメラノサイトという細胞で行われます。その生成過程には、チロシナーゼやチロシナーゼ関連タンパク質などの酵素が作用します。今回はリコピンのメラニン生成を抑制するメカニズムを解明するために、細胞を用いてリコピンがチロシナーゼとチロシナーゼ関連タンパク質の遺伝子に与える影響を検討しました。

内容
実験にはメラニンを作り出す能力を持った細胞(B16メラノーマ細胞)を用いました。細胞に1μMとなるようにリコピンを添加し48時間培養しました。培養終了後、細胞より遺伝子を抽出し、リアルタイムPCRにてメラニン合成に関わるチロシナーゼとチロシナーゼ関連タンパク質(Tyrosinase related protein-1 : TRP-1)の遺伝子発現を確認しました。


図2 チロシナーゼの遺伝子発現に与える影響 , 図3 TRP-1の遺伝子に与える影響


図2、図3はリコピンがチロシナーゼ及びTRP-1の遺伝子発現に与える影響を検討した結果です。両図とも、遺伝子の発現はリコピンを添加しないときを1とした比で表しています。リコピンを添加することで、チロシナーゼ及びTRP-1の遺伝子発現を有意に抑制することを確認しました。このことから、両酵素の量が減少することが推測されます。したがって、リコピンがメラニン生成を抑制するメカニズムの1つとして、リコピンがメラニン生成に関与する酵素そのものの量を減少させることが期待できます。今後もさらなるメカニズムの解明を進めていきます。


■ 研究概要
リコピン
カロテノイドの1つで、トマトに多く含まれる赤い色素です。カロテノイドの中でも優れた抗酸化活性を有しており、活性酸素が原因と考えられる様々な疾病に予防効果を示すことが期待されています。脂溶性であることから油とともに摂取すると吸収性が高まります。

抗酸化物質
抗酸化物質とは、活性酸素を消去する働きのある物質のことです。ビタミン類では、ビタミンA、C、Eが、また野菜に含まれる色素であるカロテノイドも抗酸化物質です。

活性酸素
酸素分子から派生する、酸化力が強い物質の総称で、体中では細菌に対する攻撃やエネルギー産生に関与していますが、過剰に存在すると生活習慣病の原因になります。

紫外線
地表に届く太陽光の中で最も波長の短いものです。紫外線は波長によってUVA、UVB、UVCの3つに分けられます。UVCはオゾン層にさえぎられ、地表には届きませんが、UVAやUVBは地表まで届きます。紫外線は体内でビタミンDを作るのを助けるなどよい影響もありますが、一方浴びすぎると皮膚や目など生体に悪い影響を及ぼすことがあります。紫外線の強さは時刻や気象条件により変わりますが、一日の中では正午ごろ、季節では5から8月頃に最も強くなります。

光老化
紫外線を長年浴び続けた結果生じるシワやシミなどの皮膚の老化現象のことです。光老化の度合いは紫外線を浴びた時間と強さに比例するといわれています。

コラーゲン
コラーゲンは骨や軟骨などを構成するタンパク質の一種です。コラーゲンには多くの種類があり、I型コラーゲンは真皮の主な構成成分であり、皮膚の強度や弾力を与える働きをしています。コラーゲンの量は加齢や紫外線により減少することが知られており、コラーゲン量の減少はシワ形成の原因の1つです。

メラニン
メラニンは体内で合成される色素の一種です。細胞を紫外線から守る働きをする物質です。しかし、メラニンが過剰に生成されると、シミ・ソバカスの原因になってしまいます。

リアルタイムPCR
遺伝子の発現量を定量的に測定する方法です。



【資料】学会発表の要旨
Lycopene prevents environmental insults for premature skin aging

a Hirono Sasaki, a Hironobu Mori, a Takahiro Inakuma, b Akimichi Morita

a KAGOME Co. Ltd.,Research Institute, 17 Nishitomiyama, Nasushiobarashi Tochigi, 329-2762, Japan b Department of Geriatric and Environmental Dermatology, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences, 1 Azakawasumi Mizuhochou, Mizuhoku, Nagoya, Aichi, 467-8602, Japan


Chronic exposure of human skin to UV radiation is a major environmental factor contributing to skin aging. i.e., wrinkles and pigmentation [1]. UV radiation induces oxidative stress to the skin. Therefore, antioxidant treatment is considered to be useful for reducing the UV-induced injury [2], [3]. Lycopene is the main carotenoid in tomatoes and has been identified in human skin [4]. It is an acyclic carotenoid with 11 linearly-arranged conjugated double-bonds and is a powerful antioxidant. We investigated the effect of lycopene on collagen production (Study 1) and on the inhibition melanin synthesis (Study 2).
Study 1: The effect of lycopene on collagen production

We investigated the effect of lycopene on type I collagen, which is the major structural component of the skin and is suggested to be a cause of wrinkles in UVA irradiation of cultured human skin fibroblasts.

Methods: Human skin fibroblasts were purchased from Lonza Walkersville, Inc. (Maryland ,USA). The cells were seeded into 12-well plates at 3×104cells/well in DMEM supplemented with 10% FBS. After 24 hours, the cells were subjected to lycopene treatment for 24 hours. The cells were then irradiated with UVA (30 J/cm2). The UVA-irradiated cells were cultured further for 24 hours. The amount of type I collagen released into the cell culture medium was measured by Western blot analysis.

Results: Lycopene treatment of non-irradiated cells increased the amount of type I collagen in the culture medium. UVA irradiation significantly decreased the release of type I collagen in the medium. Lycopene treatment of UVA-irradiated cells induced a 1.3-fold rise in type I collagen release into the medium . These results suggest that lycopene increases collagen synthesis and inhibits UVA-induced collagen reduction in human fibroblasts. Lycopene could be useful for prevention against wrinkles.

Study 2 : The effect of lycopene on the inhibition melanin synthesis

Melanin plays an important role in preventing UV-induced skin damage. On the other hand, increased level of melanin synthesis induces pigm entation. We investigated the effect of lycopene on the inhibition melanin synthesis.

Methods: B16 melanoma cells were purchased from Japan Health Science Foundation (Tokyo, Japan). B16 melanoma cells seeded into 24-well plates at 4×104cells/well in DMEM supplemented with 10% FBS. After 24 hours, B16 melanoma cells were incubated with lycopene and arbutin as the positive control for 3 days until harvested. The melanin contents were measured as absorbance at 405 nm after hydrolysis by 10% DMSO/2N NaOH.

Results: Lycopene is not cytotoxic to B16 melanoma cells in the concentration range 0.1-10μM. The melanin content was significantly reduced to 75% and 70% by addition of lycopene and arbutin. These results suggest that the effect of lycopene on inhibition melanin synthesis was as well as arubtin. Lycopene may be considered as promising for whitening agents.

In conclusion, our results (Study 1 and Study 2) indicate that lycopene has the potential benefit on skin aging.


References
[1] Kim SY, Kim SJ, Lee JY, Kim WG, Park WS, Sim YC, Lee SJ. J Am Coll Nutr, 157-62 (2004)
[2] Stahl W, Heinrich U, Aust O, Tronnier H, Sies H. Photochem Photobiol Sci, 238-42 (2006)
[3] Greul AK, Grundmann JU, Heinrich F, Pfitzner I, Bernhardt J, Ambach A, Biesalski HK, Gollnick H., Skin Pharmacol Appl Skin Physiol, 307-15 (2002)
[4] Khachik F, Carvalho L, Bernstein PS, Muir GJ, Zhao DY, Katz NB. Exp Biol Med (Maywood) , 845-51 (20002)



【資料】学会発表の要旨(日本語訳)
リコピンの光老化抑制効果

a 佐々木啓乃,a 森啓信,a 稲熊隆博, b 森田明理

a カゴメ株式会社 総合研究所
b 名古屋市立大学大学院 医学研究科 加齢・環境皮膚科学

長期間紫外線を浴びることは、シワやシミなどの皮膚の老化の大きな原因となる。紫外線は肌に酸化ストレスを与える。そのため、抗酸化物質の摂取は、紫外線による障害を防ぐのに有用であると考えられる。リコピンはトマトに含まれるカロテノイドであり、ヒトの皮膚に蓄積することが確認されている。リコピンは共役二重結合を有する非環式カロテノイドであり、優れた抗酸化力を持っている。そこで、リコピンがコラーゲン量に与える影響(研究1)とリコピンがメラニン生成抑制に与える影響(研究2)を検討した。
研究1:リコピンがコラーゲン量に与える影響
真皮に多く含まれ、シワ形成に大きく関係しているタイプIコラーゲンに注目し、ヒト皮膚線維芽細胞を用いてリコピンがタイプIコラーゲンに与える影響を検討した。
方法:ヒト皮膚線維芽細胞を12 Wellプレートに3×104 Cells / wellとなるように撒き、24時間培養を行った。培地は10 % FCSを含むDMEMを使用した。培養後、リコピンを添加し、さらに24時間培養した。細胞にUVA (30 J/cm2)を照射後、さらに24時間培養し、培養液中のタイプIコラーゲン量をウェスタンブロット法にて測定した。
結果:紫外線を照射しない時、リコピンは培養液中のコラーゲン量を増加させた。紫外線を照射することで、培養液中のタイプIコラーゲン量は減少した。しかし、リコピンを加えることでタイプIコラーゲン量は1.3倍になった。以上の結果より、ヒト皮膚線維芽細胞において、リコピンはコラーゲン合成を増加し、UVA照射によるコラーゲン量の減少を抑制することを確認した。従って、リコピンにシワ予防効果が期待できる。
研究2:リコピンがメラニン生成抑制に与える影響
メラニンには紫外線によるダメージを防ぐ働きがあるが、メラニンが過剰に作られてしまうとシミの原因となる。そこで、リコピンのメラニン生成抑制効果を検討した。
方法:B16 メラノーマ細胞を24 Wellプレートに4×104 Cells / wellとなるように撒き、24時間培養を行った。培地は10 % FCSを含むDMEMを使用した。培養後、リコピンまたはアルブチンを添加し、さらに3日間培養した。培養後の細胞に10% DMSO / 2 N NaOHを加え、メラニンを溶解させ、405 nm の吸光度を測定した。
結果:リコピンは0.1〜10 μM の範囲で細胞毒性はなかった。リコピンはメラニン生成量を75 %に、アルブチンは70 %にし、コントロールに対し有意にメラニン生成を阻害した。従って、リコピンに美白効果が期待できる。
研究1、研究2より、リコピンに光老化を抑制する効果が期待できる。