ニュースリリース ニュースリリース

タマネギの摂取がディーゼル排気微粒子による 男性生殖毒性を抑制することを確認

2009年3月25日



 青森県立保健大学(青森県青森市)とカゴメ株式会社経営企画本部総合研究所(栃木県那須塩原市)は、ケルセチンやケルセチンを多く含む野菜であるタマネギの摂取が、ディーゼル排気微粒子による男性生殖毒性を抑制する効果があることを、動物を用いた試験で確認しました。
 なお、本研究内容はBioscience, Biotechnology, and Biochemistry誌(日本農芸化学会英文誌)72巻5号に掲載しており、且つ日本農芸化学会2009年度大会(3月27日〜29日、福岡)において発表致します。

■青森県立保健大学 井澤先生のコメント
 ディーゼル排気微粒子はいくつかの毒性成分を含むことが知られていますが、その一つは男性の生殖毒性を示すことが知られています。動物での評価により、タマネギやその成分であるケルセチンが、その毒性を軽減する作用を確認いたしました。ヒトでの評価は行なわれておりませんが、タマネギを食べることは、こういった毒性の軽減に何かしら影響を与えているのかも知れません。毒性が軽減されるメカニズムなどの更なる検討が望まれますが、以上のようなことから、身近な環境汚染物質から身を守る上でも日々の食事にタマネギなどの野菜を増やすことは良いことであると考えております。

■研究の背景
 ディーゼル排気微粒子には、さまざまな毒性成分が含まれていますが、その化合物のひとつは、ある経路(AhR:アリル ハイドロカーボン レセプター)を通じて毒性を示すことが知られております。また、ディーゼル排気微粒子による男性の生殖毒性も、この経路が関与しているとの報告があります。タマネギに含まれるケルセチンは、この経路に影響を与えることが知られていることから、ケルセチンやケルセチンを多く含む野菜であるタマネギの摂取が男性生殖毒性に対し良い影響を与えることが考えられ、本実験を行ないました。

■研究概要
≪目的≫
ディーゼル排気微粒子によって引き起こされる精子の形成異常等の毒性に対し、ケルセチンやタマネギの摂取がその毒性の軽減効果を示すかどうかを評価することを目的としました。

≪試験の方法≫
マウスにケルセチンもしくはタマネギの混合飼料を7週間摂取させ、その間にディーゼル排気微粒子の懸濁液もしくはその溶媒のみ(対照)をマウスに投与しました。その後、生殖に関係する器官を採取し、精子の形成に関する指標(精子形成能、精子異常の発症率、精子形成に関与する細胞数(セルトリ細胞)など)を測定しました。

≪結果≫
ディーゼル排気微粒子の投与により、精子形成能や精子形態異常の発症率は影響を受けましたが、精子形態異常の発症率に関しては、ケルセチンやタマネギを摂取することで抑制することが確認されました。また、精子の形成に関与するセルトリ細胞は、ディーゼル排気微粒子で減少しましたが、ケルセチンやタマネギを摂取することで、その減少は抑制されました。


図1.ケルセチン、タマネギの精子の形態異常の発症率に与える影響
(平均±標準誤差、n=9、**P<0.01、*Pp<0.05(vsディーゼルのみ))
(図1の説明)
ディーゼル廃棄粒子を投与することで、精子異常の発症率は50%程度まで増加しましたが、ケルセチンやタマネギを投与しているマウスでは、その発症率が有意に低下いたしました。




図2.ケルセチン、タマネギのセルトリ細胞に与える影響
(左上:対照、右上:ディーゼルのみ、中左:ディーゼル+0.3%ケルセチン、中右:ディーゼル+0.1%ケルセチン、左下:ディーゼル+0.03%ケルセチン、右下:ディーゼル+0.5%タマネギ)
(図2の説明)
精巣の断面のセルトリ細胞を特殊な方法で染色して観察しました。通常(左上)では、精細管の中にセルトリ細胞(矢印)が数多く観察されますが、ディーゼル排気微粒子を投与することでそれは減少します(左上)。ケルセチン(中左、中右、左下)やタマネギ(右下)を投与することで、その減少は抑制されることが確認されました。セルトリ細胞数は一定であることから、ディーゼル排気微粒子が細胞数を減少させたのではなく、細胞機能を低下させたために染色されなかったと考えられます。


≪まとめ≫
このように、ケルセチンやケルセチンを多く含む野菜であるタマネギの摂取は、ディーゼル排気微粒子による男性生殖の毒性緩和に役立つことが示唆されました。


■用語の説明
ケルセチン:
 ケルセチンとはフラボノイドの一種で、野菜の中ではタマネギに多く含まれています。優れた抗酸化作用があり、様々な病気の予防に有効であることが分かっています。また最近では、アレルギーや骨の代謝に影響を与えるとの報告もあり、花粉症やアレルギーの抑制や骨粗しょう症の予防に期待されている成分です。

ディーゼル排気微粒子:
 ディーゼル燃料を燃やすことで発生する微粒子(黒いスス)のことです。多重芳香族炭化水素化合物やニトロ化多重芳香族炭化水化合物など、発がん性などの有害な化合物を含んでおり、生体に与える影響も懸念されています。

アリル ハイドロカーボン レセプター(AhR):
 細胞にある受容体(レセプター)のことで、ダイオキシン類の多くは、この受容体に結合し、毒性を示すことが知られています。

セルトリ細胞:
精巣にあって、精子形成を支える細胞です。


【資料】学会発表の要旨
ディーゼル排気微粒子によるマウス雄性生殖毒性に対するケルセチンとタマネギの毒性軽減効果


井澤弘美1、小原麻智子2、相澤宏一3、菅沼大行3、稲熊隆博3、渡辺元4、田谷一善4、嵯峨井勝5

1、青森県立保健大学健康科学部栄養学科
2、青森県薬剤師会衛生検査センター
3、カゴメ株式会社総合研究所
4、東京農工大学農学部獣医学科
5、つくば健康生活研究所

 ディーゼル排気微粒子(DEP)は生殖毒性がある。DEPには多環芳香族炭化水素類(PAH)などが含まれている。PAHの毒性発現にはアリル炭化水素受容体(AhR)が関与している。よってDEPの生殖毒性もAhRが関与していることが考えられる。一方、フラボノイド類はAhRの拮抗剤としてはたらくことが明らかになった。そこで我々は、フラボノイド類のケルセチンとそれを多く含むタマネギを雄マウスに摂取させ、DEPによる雄性生殖毒性が軽減するかどうかを検討した。その結果、ケルセチン+DEP群では普通食+DEP群と比べて一日精子生産量の減少の抑制傾向が示された。また、ケルセチン+DEP群とタマネギ+DEP群では普通食+DEP群と比べて精子形態異常率の増加が有意に抑制された。さらに、ケルセチン+DEP群では普通食+DEP群と比べてセルトリ細胞数の減少が有意に抑制された。これらからケルセチンやタマネギがDEPによるマウス雄性生殖毒性を軽減することが示された。