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赤ピーマンのHDL-コレステロール上昇作用に関係する 有効成分とメカニズムを確認

2009年9月3日

 

 カゴメ株式会社総合研究所(栃木県那須塩原市)は、赤ピーマンの摂取がHDL-コレステロール(善玉コレステロール)を上昇させる作用について、有効成分とメカニズムを確認しました。このことから、メタボリックシンドロームを予防することが期待されます。
 なお、本研究内容はBritish Journal of Nutrition誌(英国栄養学雑誌)に投稿、受理されており、日本食品科学工学会 第56回大会(9月10日〜12日、名城大学)、International Society for Nutraceutical and Functional Foodsの 2009年次大会(11月1日〜4日、サンフランシスコ)において発表致します。

■カゴメ研究者のコメント

 赤ピーマンはさまざまな栄養成分を含んでおり、生活習慣病の予防などの生理作用が期待できます。これまで、赤ピーマンの摂取がHDL-コレステロールを上昇させる効果を明らかにしてきました。今回、HDL-コレステロールを上昇させる成分は赤ピーマン中のカプサンチンというカロテノイドであり、そのメカニズムとしてHDLを構成するタンパクや代謝に関連する酵素を活性化することを明らかに致しました。
 HDL-コレステロールは善玉コレステロールと言われており、動脈硬化や虚血性心疾患の予防効果が確認されております。またHDL-コレステロールを高めることはメタボリックシンドロームの予防や改善につながると考えます。バランスのとれた食生活に、さらに赤ピーマンを加えることで、これらの疾病になりにくくなることが期待されます。

■研究の背景

 ガン、心疾患や脳血管疾患などの生活習慣病は大きな社会問題になっており、その中でも動脈硬化をはじめとする循環器系疾患が大きな割合を占めております。また、中性脂肪の増加やHDL-コレステロールの低下は、最近話題になっているメタボリックシンドロームの診断基準の一つとされており、脂質代謝を改善することの重要性が認識されております。その中でも、HDL-コレステロールは男性の高齢者で低い人の割合が高まり、50歳以上の男性においては1割以上の方がHDL-コレステロールが低いことが報告されています(図1:用語説明欄に掲載)。
 赤ピーマンは、赤色のカロテノイド色素であるカプサンチンを含み、ビタミンCやビタミンEも豊富です。そのため、様々な生理作用が期待できる素材です。カゴメでは、これまで赤ピーマンの摂取がHDL-コレステロールを上昇させることを動物や人での試験にて明らかにして参りました(カゴメ 2006年版 ニュースリリース)。ただし、赤ピーマンのどの成分がHDL-コレステロールを上昇させるか、またどういったメカニズムでHDL-コレステロールが上昇するかは分かりませんでした。そこで今回は、その有効成分とメカニズムの確認を行ないました。

■研究概要

≪目的≫

 赤ピーマンの有効成分を明らかにする目的で、赤ピーマンとその分画物を実験動物に投与し、どの画分がHDL-コレステロールを上昇させるか確認を行ないました。また、メカニズムを明らかにする目的で、それら動物の肝臓から遺伝子を抽出し、どういった遺伝子の発現に影響を与えているか確認いたしました。

≪試験の方法≫

実験1:有効成分の解明
 本試験では、Wistarラットを以下の5群に分けて評価を行ないました。

1.対照群:通常飼料
(カプサンチン含量 0mg/100g飼料)

2.赤ピーマン群:赤ピーマンの凍結乾燥物を加えた飼料
(カプサンチン含量 28.4mg/100g飼料)

3.抽出物群:2に相当する赤ピーマンの有機溶媒抽出物を加えた飼料
(カプサンチン含量 19.0mg/100g飼料)

4.抽出残渣群:3で抽出した残渣を加えた飼料
(カプサンチン含量 7.1mg/100g飼料)

5.カプサンチン群:2に相当する精製カプサンチンを加えた飼料
(カプサンチン含量 28.4mg/100g飼料)

それぞれの飼料を2週間摂取させた後、血中脂質(総コレステロール、中性脂質、HDL-コレステロールなど)の分析を行ないました。

実験2:メカニズムの解明
 本試験ではWistarラットを以下の3群に分けて評価を行ないました。

1.対照群:通常飼料(カプサンチン含量 0mg/100g飼料)
2.低カプサンチン群:精製カプサンチンを16mg/100gの濃度で加えた飼料
3.高カプサンチン群:精製カプサンチンを32mg/100gの濃度で加えた飼料

 それぞれの飼料を2週間摂取させた後、血中脂質(総コレステロール、中性脂質、HDL-コレステロールなど)の分析を行ないました。また摘出した肝臓からRNAを抽出し、HDL-コレステロールに関係する遺伝子の発現をRT-PCR法にて分析いたしました。

≪結果≫

実験1:有効成分の解明

 図2は、赤ピーマンの各分画物を摂取させたラットの血中HDL-コレステロール濃度です。対照群と比較して、赤ピーマン群ではHDL-コレステロールの上昇傾向が確認され、同じ量の精製カプサンチンを添加したカプサンチン群ではHDL-コレステロールは有意に上昇いたしました。以上の結果から、HDL-コレステロールを上昇させる有効成分はカプサンチンであることが判明致しました。
赤ピーマン分画物摂取後の血中HDL-コレステロール濃度の変化
図2.赤ピーマン分画物摂取後の血中HDL-コレステロール濃度の変化
(平均+標準誤差、n=6、右肩の記号の異なる所で有意差ありP<0.05 (Tukey))


実験2:メカニズムの解明

 図3は、濃度の異なるカプサンチンを含む餌を摂取させた肝臓中のHDL-コレステロールの代謝に関連する遺伝子の発現状況です。カプサンチンを摂取させることで、肝臓中のapo A5、LCATという遺伝子の発現が増加することが確認されました。apo A5はHDLを構成するタンパクのひとつで、HDL中にコレステロールを取り込む作用が報告されています。LCATは、HDLに存在するコレステロールの代謝に関連する酵素です。カプサンチンはこれらのタンパクや酵素を増やすことにより、HDL-コレステロール濃度を上昇させることが示唆されました(図4)。
カプサンチン摂取後の肝臓の遺伝子発現の解析
図3.カプサンチン摂取後の肝臓の遺伝子発現の解析
(平均+標準誤差、n=8、*P<0.05 vs 対照群 (Dunnett))

ABC-A1:ATP結合輸送膜蛋白-A1、apo A1:アポリポ蛋白 A1、apo A5:アポリポ蛋白 A5、apo C3:アポリポ蛋白 C3、HL:肝性リパーゼ、LCAT:レシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼ、LPL:リポ蛋白リパーゼ、SR-B1:スカベンジャー受容体-B1

カカプサンチンのHDL-コレステロール上昇の推定作用メカニズム
図4.カプサンチンのHDL-コレステロール上昇の推定作用メカニズム


≪まとめ≫

 今回の研究から、赤ピーマンのHDL-コレステロールを上昇させる成分はカプサンチンであり、HDLを構成するタンパクや代謝に関連する酵素に影響を与えているためにHDL-コレステロールが上昇することが明らかになりました。今後も赤ピーマンを摂ることの良さについてさまざまな評価を行なうと共に、今回のような科学的な裏づけを明らかにしてまいります。


■用語の説明

HDL-コレステロール:
高密度リポタンパク質コレステロールのことです。血管抹消のコレステロールを回収する働きがあり、動脈硬化と逆の相関を示すことから、善玉コレステロールと言われております。中高齢者において、HDL-コレステロールが低い方の割合が増えております。
メタボリックシンドロームの診断基準のひとつに、血中のHDL-コレステロールが低いこと(40mg/dl未満)があります。

カプサンチン:
赤ピーマンに含まれる赤い色素のことで、カロテノイドの一種です。カロテノイドとは、野菜・果物やカニやエビなどの水産物などに含まれている赤・橙・黄色の脂溶性色素で、現在では600種類以上の存在が知られています。トマトに含まれるリコピン、ニンジンのβ-カロテン、赤ピーマンのカプサンチンが有名です。
カプサンチンは、分子中に酸素を含み,このようなカロテノイドをキサントフィルと呼び、リコピンやβ-カロテンなどのカロテンとは区別されております。カプサンチンは優れた抗酸化作用を有することから、生活習慣病をはじめとする様々な疾病の予防効果が注目されています。

apo A5:
アポリポ蛋白 A5 (apolipoprptein A5)のことで、血液中の脂質成分を運搬する粒子を構成するタンパク質の一つ。HDLという粒子に存在し、最近の研究よりコレステロールの流入を促進する働きが報告されています。

LCAT:
レシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼ(Lecitin-cholesterol acyltransferase)のことです。LCATは肝臓で合成される酵素で、HDLに結合して存在しておりコレステロールの代謝を行なっているものです。

HDLコレステロールが低い人の割合:平成18年国民健康・栄養調査報告より
HDL-コレステロールが低い人(40mg/dl未満)の割合
図1.HDL-コレステロールが低い人(40mg/dl未満)の割合



【資料】学会発表の要旨(食品科学工学会)

赤ピーマンに含まれるカプサンチンのHDL-コレステロール上昇作用
相澤宏一,稲熊隆博
(カゴメ(株)・総研)

【目的】赤ピーマン(Capsicum annuum)は、カロテノイド色素、特にキサントフィル類であるカプサンチンを豊富に含む野菜である。生食または調理され、広く食に用いられていると共に、食品添加物などの原料としても利用されている。カロテノイド色素の中でもキサントフィル類は、高密度リポタンパク(HDL)中に高い割合で分布していることから、HDLの代謝に影響を与えている可能性が考えられる。そこで、動物に赤ピーマンや精製したカプサンチンを摂取させ 、血中脂質濃度と肝臓の脂質代謝に関連する遺伝子発現への影響について評価を行なった。
【方法】Wistarラットに赤ピーマンの分画物(赤ピーマン粉末、有機溶媒抽出物、抽出残渣、精製カプサンチン)を含む飼料を2週間摂取させ、血中脂質濃度(総コレステロール、トリグリセリド、HDL-コレステロールなど)の分析を行なった。また同じラットに濃度の異なる精製カプサンチンを含む飼料を摂取させ、血中脂質濃度の分析および肝臓の遺伝子発現への影響をPT-PCRにて分析した。
【結果】ラットに赤ピーマンの分画物を摂取させたところ、カプサンチンを含む画分は、総コレステロールやトリグリセリド濃度に顕著な影響を与えず、血中HDL-コレステロール濃度のみ有意に増加させた。また濃度の異なる精製カプサンチンの摂取は、濃度依存的なHDL-コレステロール上昇作用を示した。次に、HDL-コレステロールを上昇させた要因を把握すべく、肝臓遺伝子の発現状態を評価したところ、カプサンチンの摂取はHDL代謝に関連する特定遺伝子の発現に影響を与えていることが確認された。
以上の結果から、カプサンチンを豊富に含む赤ピーマンの摂取は、HDL-コレステロールを増加させ、循環器系疾患やメタボリックシンドロームの予防に有効であることが示唆された。


【資料】学会発表の要旨(International Society for Nutraceutical and Functional Foods)

Dietary capsanthin, the main carotenoid in Paprika (Capsicum annuum), alters plasma HDL-cholesterol levels and hepatic gene expression in rats


The effects of dietary capsanthin, the main carotenoid in paprika (Capsicum annuum), on lipid metabolism were examined. Young male Wistar rats were fed diets containing paprika powder, paprika organic solvent extract, residue of paprika extract, and purified capsanthin. Administration of purified capsanthin for 2 weeks resulted in a significant increase in plasma HDL-cholesterol without detectable differences in plasma total cholesterol and triacylglycerol concentrations. Animals receiving diets containing two different capsanthin concentrations exhibited dose-dependent increases in plasma HDL-cholesterol. Quantitative analyses of hepatic mRNA levels revealed that capsanthin administration resulted in up-regulation of mRNA for apolipoprotein A-5 (apo A5) and lecithin cholesterol acyltransferase (LCAT), without significant differences in other mRNA levels related to HDL-cholesterol metabolism. These results suggest that capsanthin had an HDL-cholesterol raising effect on plasma, and the potential to increase cholesterol efflux to HDL particles by increasing apo A5 levels and/or enhancement of LCAT activity. The regular intake of paprika may be effective to prevent cardiovascular diseases.