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ラブレ菌特有の消化液耐性機構の考察 ~ゲノム情報と菌体成分の両面から~ ーカゴメ、麻布大学、東京大学、畜産草地研究所の共同研究ー

2010年3月25日

 

 カゴメ株式会社総合研究所(栃木県那須塩原市)、麻布大学(神奈川県相模原市)、東京大学(千葉県柏市)および畜産草地研究所(茨城県つくば市)は、Lactobacillus brevis KB290(以下、ラブレ菌)が示す高い消化液耐性について、共同で研究を進めてきました。その結果、この耐性に関わる可能性を持つ特徴的な遺伝子と菌体成分を発見いたしました
 なお、本研究内容は日本農芸化学会2010年度大会(3月27~30日、東京大学)において発表いたします。

■研究者のコメント
 ヒトの健康維持、増進に寄与する乳酸菌がその効果を発揮するためには、生きて腸まで届くことが重要です。そのためには、胃液や腸液といった消化液中でも生きぬく力を持つことが不可欠です。ラブレ菌は人工消化液に対する耐性が高く、実際にヒトの腸内で生きぬくことが確認されています。本研究では、ラブレ菌の遺伝子および菌体成分を解析することで、人工消化液耐性に関わる可能性を持つ、特徴的な遺伝子と菌体成分を見出しました。

■研究の背景
 ラブレ菌は試験管内でヒトの消化管を模したモデルによる試験で、人工消化液に対する耐性が高く、腸で生きぬく力に優れている可能性をもった乳酸菌であることが示されており、さらに、ヒトに対して整腸作用や免疫賦活作用を持つことが明らかになっています。一方、ラブレ菌の自然突然変異株が取得されており、この株はラブレ菌に比べて人工消化液に対する耐性が低いことが確認されています。そこで、ラブレ菌と変異株の2菌株をゲノム情報、および菌体成分の両面で比較することで、人工消化液耐性に関わる因子が推定できると考え、研究を行いました。

■研究概要
≪目的≫
 ラブレ菌の消化液耐性機構の解明を目的とし、ラブレ菌と変異株の2菌株をゲノム情報、および菌体成分の両面で比較することで、消化液耐性に関わる因子を推定しました。

≪試験方法1≫
 ラブレ菌の消化液耐性機構を解明するための第一歩として、既に明らかとなっているラブレ菌のドラフトゲノム(全遺伝子)配列を基にして作製したDNAマイクロアレイを用いて、ラブレ菌と変異株のゲノム配列を比較しました。加えて、ラブレ菌のドラフトゲノム配列を基に、ラブレ菌が保有するプラスミドの完全長を決定し、他の乳酸菌の遺伝子と比較して機能を推定しました。

≪結果1≫
 変異株では遺伝子の一部が欠落していることが明らかとなりました。その後、プラスミドの完全長を決定した結果、ラブレ菌は9個のプラスミド(6~42 kb)を保有することが明らかとなり、変異株はそのうち3個のプラスミド(42、35および35 kb)が欠落していました。これら脱落したプラスミドにコードされる遺伝子を他の乳酸菌と比較して推定した結果、ラブレ菌に特徴的な遺伝子が見出され、これらの人工消化液耐性への関与が推定されました。

≪試験方法2≫
 ラブレ菌と変異株をチオシアン酸ナトリウムにより処理し、得られた抽出物について構成成分を分析しました。

≪結果2≫
 変異株からは抽出されませんでしたが、ラブレ菌からのチオシアン酸ナトリウム抽出物を調べた結果、糖とたんぱく質が含まれることが判りました。よって、これらの物質がラブレ菌の消化液耐性に寄与することが示唆されました。

≪まとめ≫
 今回の研究から、ラブレ菌に特徴的な9つのプラスミドのうち3つが、人工消化液耐性に強く関与する可能性が明らかになりました。また、糖とたんぱく質を含むラブレ菌の持つ特徴的な菌体成分が、人工消化液耐性に関与する可能性も示されました。
 今回の結果より、ラブレ菌は独特な仕組みの消化液耐性を持つプロバイオティクスであると考えられました。


■用語の説明
ラブレ菌
学名 Lactobacillus brevis KB290 → 通称、ラブレ菌
京都の漬物「すぐき」から(財)ルイ・パストゥール医学研究センター(京都)で分離され、その整腸作用や免疫賦活作用が研究されてきました。また、強く撹拌すると塊を生じる(凝集する)ことが知られています。

整腸作用
排便状況(排便回数、便性状)を改善する作用のみを指す「狭義」と、排便状況改善のメカニズムである腸内菌叢バランスの改善作用を含む「広義」があります。実際の整腸作用の試験では便中の菌数や菌叢(腸内細菌の構成やその割合)も排便状況と併せて調査しています。

免疫賦活作用
広義では宿主の免疫システムを刺激し活発化する作用をいいます。ラブレ菌はがん細胞やウィルスに感染した細胞を殺し、体内における免疫反応の最前線で活躍するNK細胞や、抗ウィルス活性を持つタンパク質の産生を促進することがわかっています。

ゲノム
"gene(遺伝子)"と集合をあらわす"-ome"を組み合わせた言葉で、生物のもつ遺伝子(遺伝情報)の全体を指します。その実体は生物の細胞内にあるDNA分子であり、遺伝子や遺伝子の発現を制御する情報などが含まれています。

DNAマイクロアレイを用いた遺伝子配列の比較
スライドガラス、またはシリコン基盤の上に数万~数十万のDNA部分配列を高密度に配置し固定したDNAマイクロアレイを用いて、比較する2種類の菌株を同一のアレイ上で競合ハイブリダイゼーションをします。得られるシグナルを解析し、ゲノムの1塩基変異や欠失などのデータを取得します。

プラスミド
染色体外の(通常)環状のDNAのことを指します。その種類や有無は、菌種菌株により異なる。菌の重要な特性に関与する遺伝子がプラスミド上に存在する場合も多く報告されている。

ドラフトゲノム(全遺伝子)配列
ドラフトゲノム配列とは、未解読部分を含むゲノム配列のことを指します。ラブレ菌のドラフトゲノム配列は、ほとんどの遺伝子が把握できる段階まで解読されていましたが、いくつか未解読部分が存在していました。現段階では染色体については未解読の部分が存在していますが、今回プラスミドについてのみ未解読部分を解読し、プラスミドの完全長を決定することで、プラスミドに存在する遺伝子の機能予測をより正確に行うことが可能となりました。

試験管内でヒトの消化管を模したモデル
ヒトの消化管を試験管で簡易に再現したモデルです。サンプルを人工胃液で処理し、その後に人工腸液で処理することで、ヒトの消化管における乳酸菌をはじめとしたサンプルの耐性を簡易に評価することができます。

人工消化液耐性
人工消化液耐性は試験管内でヒトの消化管を模したモデルを用いて測定し、生残率で示しています。生残率は最初に人工胃液で処理した菌数のうち、何%が人工腸液処理後まで生残したかで表されます。

ラブレ菌自然突然変異株
菌株名はLactobacillus brevis KB392で、自然突然変異したラブレ菌を分離したものです。ラブレ菌と異なり、EPSを分泌せず、凝集性を示しません。また、この変異株は培養を繰返しても元のラブレ菌と同じ性質に戻る現象は確認されていません。



【資料】 学会発表の要旨

Lactobacillus brevis KB290が保有するプラスミドと人工消化液耐性との関係

○深尾 匡憲、鈴木 重徳、矢賀部 隆史、矢嶋 信浩、中野 章代(1)、森田 英利(1)、大島 健志朗(2)、服部 正平(2) (カゴメ総研、(1)麻布大獣医、(2)東大院新領域)

これまでに、L. brevis KB290はプロバイオティクスとしての特性のひとつである人工消化液に対する耐性が高いことを報告してきた。今回は、KB290の人工消化液耐性に影響を与える因子を見出すことを目的とし、ゲノム情報を基に解析した。胆汁酸耐性が著しく低下したKB290の自然突然変異株は、KB290のドラフトゲノム配列を基にしたCGHアレイ解析により、配列の一部が欠落していることが明らかとなった。その後、プラスミドプロファイリングおよびプラスミドの全配列決定を行った結果、突然変異株はKB290から2つ以上のプラスミド(30~50 kb)が欠落していた。これらのプラスミドには、MDR-efflux pumpや、菌体表層多糖の合成に関与すると考えられる糖転移酵素をコードする遺伝子などが見出され、これらの胆汁酸耐性への関与が推定された。そこで、相同組換えにより当該プラスミドにエリスロマイシン耐性マーカーを組込み、突然変異株や胆汁酸耐性が低いL. brevisへ導入し、プラスミドと胆汁酸耐性との関係を検討している。


Lactobacillus brevis KB290の人工消化液耐性に寄与する因子

○鈴木 重徳、深尾 匡憲、菊地 静、矢賀部 隆史、木元 広実(1)、矢嶋 信浩 (カゴメ・総研、(1)農研機構 畜草研)

【目的】L. brevis KB290は人工消化液(特に胆汁酸)に高い耐性を持つ。一方、KB290より得られた自然突然変異株(L. brevis KB392)はKB290と比較して人工消化液耐性が低い。本研究では、一般的に胆汁酸の耐性に寄与するといわれる菌体表層や細胞膜成分に着目し、KB290の人工消化液耐性因子を探索した。【方法】MRS培地で培養したKB290とKB392からNaSCNで粗抽出した菌体成分について、アンスロン硫酸法で糖含量を測定し、HPLCで構成糖を確認した。細胞膜成分については、菌体から脂質を抽出し、脂肪酸をGC、リン脂質をTLCにて解析した。【結果】NaSCN粗抽出によって、KB290からglucoseを主とする菌体成分が得られたが、KB392からは菌体成分が得られなかった。KB290の脂肪酸組成はKB392と比べてpalmitoleic acid、stearic acidの割合が高く、oleic acidの割合が低かった。またリン脂質としてphosphatidylglycerol、cardiolopinが両株で確認された。現在、これらの違いと人工消化液耐性との関連についてさらに検討中である。