ニュースリリース ニュースリリース

ラブレ菌(Lactobacillus brevis KB290)に慢性便秘患者の下剤使用量を低減し、不安などの気分状態を改善する効果が期待
~カゴメと松生クリニックが第15回腸内細菌学会(6月16日開催)にて発表~

年月日

 

カゴメ株式会社(社長:西秀訓)と松生クリニック(東京都立川市)は、Lactobacillus brevis KB290(以下、ラブレ菌)の整腸作用について共同で研究を進めており、これまでに、ラブレ菌の摂取が慢性便秘患者の下剤使用量を低減させることなどを明らかにして参りました。 今回、下剤を常用していることに不安を感じている慢性便秘患者44名を被験者としてラブレ菌の摂取試験を実施し、ラブレ菌の摂取により下剤使用回数および下剤使用量が低減されること、腸内菌叢が改善される可能性があること、さらに、不安などの気分状態が改善されること(下図参照)を明らかにしました。 なお、本研究内容は第15回腸内細菌学会(2011年6月16日、東京医科歯科大学)で発表いたします。

気分状態(「緊張ー不安」及び「抑うつー落込み」)の標準化得点の変化
図.気分状態(「緊張ー不安」及び「抑うつー落込み」)の標準化得点の変化


■ 共同研究者 松生クリニック 松生恒夫 院長のコメント
栄養素の吸収と老廃物の排泄という生命維持に不可欠な役割を担った腸の働きが低下すると、便秘になるなど、健康に様々な悪影響を与えます。 便秘の治療は、適切な下剤の投与と食事や運動といった生活習慣の指導によって行いますが、便秘の解消までには時間がかかります。 また最近では、市販の便秘薬を安易に服用し、下剤を飲まなければ排便できない「下剤依存症」に陥る人が増えています。 これまでの研究で、ラブレ菌の摂取が慢性便秘患者の排便を下剤に頼ったものから自然なものに改善する一助となることが期待されています。 今回、ラブレ菌入りのカプセルを慢性便秘患者に摂取していただいたところ、下剤使用回数と下剤使用量が低減するだけでなく、腸内菌叢が改善し、さらには気分調査票の結果から患者の不安感が軽減することが判明しました。 この結果から、ラブレ菌などのプロバイオティクスを食事に取り入れることは、Quality of Life(以下、QOL)の向上にも有効であると考えられます。

■ 研究概要
≪背景≫
慢性便秘患者では、排便を下剤に依存していることに不安を感じる声が多いと報告されています。一方、京都のすぐきから分離された植物由来の乳酸菌であるラブレ菌は、整腸作用を示すプロバイオティクスであり、慢性便秘患者の下剤使用回数と下剤使用量を低減させることが分かっています(日本乳酸菌学会2008年度大会、並びに2009年度大会で発表)。そこで、QOL向上の一助として、ラブレ菌摂取により慢性便秘患者が抱える不安感を軽減し、気分状態を改善できる可能性があると考えました。
またラブレ菌は、便秘傾向者を対象とした試験により、善玉菌であるビフィズス菌や乳酸菌を増加させる効果が明らかとなっており(第61回日本栄養・食糧学会大会で発表)、慢性便秘患者においても便秘傾向者と同様、その摂取により腸内菌叢が変化していることが推測されていました。

≪目的≫
下剤の常用に不安を感じている慢性便秘患者において、ラブレ菌の摂取が下剤使用状況や糞便内菌叢、並びに気分状態に及ぼす影響について調査いたしました。

≪実験方法≫
・被験者
便秘外来に通院し、問診時に「下剤の常用に不安を感じている」と回答した慢性便秘患者44名を対象として試験を実施いたしました。

・試験食品
試験食品には、生きたラブレ菌を製造時に100億個以上含むカプセルを用いました。被験者には、試験食品を1日に1カプセル、朝・昼・晩いずれかの食後に摂取していただきました。

・試験スケジュール
試験は図1の要領で実施し、1週間の摂取前期間の後、被験者に試験食品を4週間毎日摂取していただきました(ラブレ菌カプセル摂取期間)。

図1.試験スケジュール
図1.試験スケジュール

≪結果≫

1下剤使用状況
摂取前期間と比べて、ラブレ菌カプセル摂取期間の下剤使用回数および下剤使用量は有意に低い値を示しました(図2)。
図2.下剤使用状況の変化
図2.下剤使用状況の変化
*有意差あり
(p < 0.05、対応のあるt検定、ー平均値、n=33)


2糞便内菌叢
摂取前期間中と比べて、ラブレ菌カプセル摂取期間最終週の糞便では、善玉菌の一種である乳酸菌数は有意に高い値を、日和見菌の一種であるバクテロイデス属菌数は有意に低い値を示しました(図3)。

図3.糞便1g中の乳酸菌数およびバクテロイデス属菌数の変化
図3.糞便1g中の乳酸菌数およびバクテロイデス属菌数の変化
*有意差あり
(p < 0.05、対応のあるt検定、ー平均値、n=19)


3気分状態
摂取前期間と比べて、ラブレ菌カプセル摂取期間最終日の「緊張ー不安」および「抑うつー落込み」の標準化得点は有意に低い値を示しました(図4)。なお、これらの得点は高いほど、「緊張ー不安」もしくは「抑うつー落込み」をより強く感じていることを表します。

図4.気分状態(「緊張ー不安」及び「抑うつー落込み」)の標準化得点の変化 (再掲)
図4.気分状態(「緊張ー不安」及び「抑うつー落込み」)の標準化得点の変化 (再掲)
*有意差あり
(p < 0.05、ウィルコクソンの符号付順位和検定、ー平均値、n=22)


≪まとめ≫
今回の結果から、ラブレ菌の摂取により慢性便秘患者の下剤使用回数と下剤使用量が低減されること、患者の腸内菌叢が改善する可能性があることが示されました。さらに、ラブレ菌の摂取は慢性便秘患者の不安などの気分状態の改善に有効である可能性が示されました。



■ 用語の説明

ラブレ菌:
学名 Lactobacillus brevis KB290 → 通称、Labre (ラブレ菌)
京都の漬物「すぐき」から(財)ルイ・パストゥール医学研究センター(京都)で分離され、その整腸作用や免疫力を高める作用が研究されてきました。

整腸作用:
排便状況(排便回数、便性状)の改善および排便状況改善のメカニズムである腸内菌叢バランスの改善作用を整腸作用といいます。

慢性便秘患者:
便秘の定義は明確に定められていないため、今回は通院治療を行っており、下剤を常用している方を慢性便秘患者といたしました。

便秘傾向者:
研究者によって定義が異なりますが、一般的に排便の間隔が不規則な場合、毎日排便がある場合でも排便に苦痛を伴う場合を指します。便秘傾向とは、これらの症状を示しますが、加療には至っていない場合で、排便が2週間で4~10回の状態としました。

下剤使用状況:
慢性便秘患者が1日に下剤(酸化マグネシウム製剤、下剤浣腸剤、ピコスルファートナトリウム水和物製剤)を使用した回数および量を、それぞれ下剤使用回数、下剤使用量といたしました。
(本試験の解析対象者は基本的に上記3剤のみを使用)

腸内菌叢と糞便内菌叢:
ヒトの腸内には様々な菌が数多く生育しています。同様に糞便にも様々な菌が含まれていますが、糞便に含まれている菌は腸内の菌をある程度反映していると言われています。これらの菌の種類や数などの生態系を菌叢と言います。

乳酸菌とバクテロイデス属菌:
乳酸菌は、ビフィズス菌と同様に「善玉菌」と通称され、オリゴ糖や乳糖を分解して乳酸や酢酸を産生し、「悪玉菌」の増殖を抑えることが知られています。また、バクテロイデス属菌は、腸内環境の違いで「善玉菌」にも「悪玉菌」にもなりうる、「日和見菌」として知られています。

日本語版POMS短縮版TM
医療や心理学の分野で広く用いられている、気分調査票(気分状態を評価するためのアンケート)です。30項目の質問を5段階で自己評価することにより、6つの気分状態(緊張ー不安、抑うつー落込み、怒りー敵意、活気、疲労、混乱)を同時に評価することができます。また、標準化得点とは、各気分状態の素得点(合計点)を、「性別と年齢を考慮した得点」に換算し、性別や年齢が異なるデータを比較できるようにした得点のことを言います。

Quality of Life (QOL)
一般的には、人が充実感や満足感を持って日常生活を送ることができる「生活の質」を意味しています。



【資料】学会発表の要旨

[演題名]
Lactobacillus brevis KB290の摂取が、下剤を常用する慢性便秘患者の気分状態に及ぼす影響

[英文タイトル]
The effects of Lactobacillus brevis KB290 on the mood states in laxative-addicted patients with chronic constipation.

[発表者]
○鈴江良隆1)、井上拓郎1)、信田幸大1)、松生恒夫2)、矢賀部隆史1)
1) カゴメ株式会社、 2) 松生クリニック

[抄録]
【目的】慢性的な便秘の標準治療には浸透圧緩下薬や刺激剤等の下剤が用いられている。しかし、下剤を常用する慢性便秘患者では、下剤に依存していることに不安を感じている声も多い。一方、京都のすぐきから分離された植物性(植物由来)の乳酸菌であるLactobacillus brevis KB290(以下、KB290)は整腸作用があるプロバイオティクスであり、下剤を常用する便秘患者の下剤使用回数と下剤使用量を低減させることが報告されている。そこで、KB290の摂取が下剤の常用に不安を感じている慢性便秘患者の気分状態と糞便内菌叢に及ぼす影響について検討した。

【方法】便秘外来に通院し、問診時に下剤の常用に不安を感じていると回答した慢性便秘患者40名を被験者とした。1週間の摂取前観察期間の後、4週間の摂取期間中にKB290を約1.5×1010cfu含むカプセルを1日に1カプセル、食後に摂取してもらった。試験期間中毎日、下剤使用状況、排便状況、腹部不快感の強さを24時間思い出し方式によるアンケートで調査した。また、摂取前観察期間と摂取期間の最終日に、日本語版POMS短縮版を用いて、気分状態を調査した。さらに、摂取前観察期間と摂取期間の最終週に採取した糞便を用い、糞便内菌叢(ビフィズス菌、乳酸桿菌、レシチナーゼ陽性クロストリジウム属、バクテロイデス属、大腸菌群)を培養法により調査した。

【結果】試験を完遂した被験者のうち、32名を解析対象者とした。摂取期間では、摂取前観察期間と比較して、下剤使用回数と下剤使用量は有意に少なく、排便回数と排便量、腹部不快感の強さは差がなかった。さらに、 日本語版POMS短縮版を実施した週に気分の大きな変動を自覚しなかった被験者の気分状態は、「緊張ー不安」、「抑うつー落込み」のスコアが有意に低かった。また、下剤使用量が減少した被験者の摂取期間の糞便内菌叢は、摂取前観察期間と比較して、乳酸桿菌数が有意に多く、バクテロイデス属の菌数が有意に少なかった。

【考察】KB290の摂取は、下剤を常用する慢性便秘患者の不安等の気分状態緩和に有効である可能性が示唆された。この一因として、下剤使用回数や下剤使用量が低減したことが考えられた。また、KB290の摂取は、患者の腸内菌叢を変化させることが示唆された。