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トマトジュースに、気管支喘息の症状緩和作用を確認 ーカゴメ・順江会江東病院の共同研究ー

年月日

 カゴメ株式会社総合研究所(栃木県那須郡西那須野町)は、順江会江東病院(東京都江東区)との共同研究で、中等症(入院加療を要する患者)以上の気管支喘息患者がトマトジュースを定期的に摂取することで、喘息症状や発作回数が軽減することを確認しました。本研究内容は、第43回日本呼吸器学会総会において発表しました。
喘息入院患者53例(平均年齢50歳、男性38例、女性15例)と健常人280例(平均年齢47歳、男性196例、女性84例)を対象に、血清中のリコピン濃度を調べました。その結果、喘息患者の血清中リコピン濃度は健常者に比べて有意に低くなっていました(図参照)。
喘息入院患者と健常人の血清中リコピン濃度(μmol/L)の比較
図.喘息入院患者と健常人の血清中リコピン濃度(μmol/L)の比較
図の説明
 喘息入院患者53例と280例の血清中のリコピン濃度(単位はμmol/L)を示しています。図のように、喘息入院患者では健康な人と比べてリコピン濃度が3割程度低くなっていることが判りました。

 そのうち、リコピン濃度が低値であった症例に市販のトマトジュースを1ー2本/日継続飲用して頂き、各呼吸機能パラメーターを調べました。リコピン濃度が顕著に低かった中等症以上の喘息患者5例(平均年齢53歳、男性4例、女性1例)は、いずれも飲用開始から2ヶ月以内に自覚症状の改善が認められました。
 気管支喘息症状の度合いを示す"ピークフロー値"が飲用開始前と比べて平均で10%程度上昇しました。努力肺活量"FVC"は約15%上昇し、"FEV1"も10%程度上昇していました。
 このような気管支症状の改善の結果、半年間の入院日数が顕著に減少し(20日以上→5日程度)、救急外来受診日数も減少しました。
用語の説明
リコピン:
トマトに豊富に含まれる赤色の色素。生トマトよりもトマトジュースやケチャップに多い。野菜にはリコピン以外に、β-カロチン(ニンジンなどに多い)、カプサンチン(赤ピーマンに含まれる)といったカロテノイド色素が豊富に含まれている。β-カロチンは、ヒトの体内でビタミンAに変換されるが、リコピンやカプサンチンは変換されない。
ピークフロー:
気道の狭窄状態を簡便に知るための数値で、一秒率とほぼパラレルに変化する。喘息患者さんは自宅でピークフローメーターという簡便な器具を用いてこの数値を測定し、発作の程度を知る事が出来る。性別・年齢・体型によって標準値が決まっており、喘息患者ではこの数値が健常者の80%以上に保てればコントロールが良好であると考えられている。
努力肺活量;FVC(Forced Vital Capacity):
一気に呼出したときの肺活量を指す。最大吸気位から一気にできるだけ速く、最大の呼気位まで呼出することにより得られる。肺活量はゆっくり吸気・呼気をさせて求めたものだが、努力肺活量は強制呼出させたときの肺活量である。両者は正常者では原則的に等しいが、喘息や肺気種の場合には空気のとらえこみ現象のために努力肺活量のほうが小さくなることがある。また、喘息の場合、思いきり息を吐くと気管支の炎症を刺激してしまうので吐くのを途中でやめてしまうことがあり、そのときにも努力肺活量が減少する。
FEV1(Forced Expiratory Volume in 1st second)一秒量:
1秒当たりの努力呼気肺活量、すなわち1秒間に呼出できる量のことである。
田村尚亮先生からのコメント
 気管支喘息は、好酸球やリンパ球などの炎症細胞によって引き起こされる慢性アレルギー性気道炎症です。こうした炎症によって様々な程度の気道狭窄を来たし呼吸困難や咳・痰などの喘息発作と呼ばれる症状が引き起こされます。
 最近は吸入ステロイド剤が標準的な治療に用いられるようになり、喘息患者さんのコントロールは徐々に良好になりつつあります。しかし、様々な危険因子によって増悪を来す症例はまだまだ多く、救急外来を頻回に受診する患者さんも少なくありません。
 米国では運動誘発喘息患者さんに対するリコピン投与によって呼吸機能が改善することが報告されています。今回の検討では、入院加療を要した気管支喘息患者さんの血清中のリコピン濃度が、健常者に比べて有意に低値であったこと、こうした患者さんにリコピンを含有するトマトジュース飲用が、喘息症状の軽減作用を示す可能性が認められました。
 喘息患者さんの全てに有効であることはないでしょうし、今後さらに多数の症例で有効性に関しての検討をすべきものですが、注目すべき事実を有していると考えております。
 重症の患者さんはただでさえ多数の薬を使用されていて、出来ればこれ以上薬を増やしたくないと考えています。一方、軽症の患者さんは発作が起きるまでは、つい薬の服用を忘れがちです。
 リコピンはトマトに多く含まれる成分であるため、薬としてではなく、トマトやその加工品を日々の食生活にうまく取り入れることで、その効果が期待できることが重要です。
 このような食品中の機能性成分は継続的に摂取することが大切で、それによって規則正しい食生活を送ることも可能となります。今後も、気管支喘息患者さんのQOLの向上に役立つことができるよう、引き続き研究を進めていきます。
参考
研究のきっかけ
 近年、ガンや糖尿病などに代表される生活習慣病が増加し続けており、それらの疾病を予防するための対策が「健康日本21」など、様々な形で報じられています。生活習慣病は発症してしまうと元の状態に戻ることは難しいため、発症した後に治療するのではなく、発症そのものを防ぐ、すなわち予防することが重要となります。この生活習慣病という概念が1996年に提起され、その予防には規則正しい生活習慣が重要となります。しかし、生活習慣を改善するだけで問題を解決することは難しく、それには「生活環境」の問題が関わってきます。二酸化炭素、自動車や工場等からの排気ガス、河川の汚染、紫外線量の増加等が種々のアレルギー性疾患を引き起こしています。これら環境の悪化により発症する病気は「生活環境病」とも呼ばれています。
  「生活環境病」ともいえる気管支喘息は、気管や気管支がアレルゲンや感染、運動、温度差といった刺激により発作的に狭くなることで起こると言われています。主な症状として、咳や痰、呼吸困難などがあります。喘息はアトピー体質の子どもなどに多いですが、成人でも気道感染などの誘因によって発病します。我国の気管支喘息は成人で1〜3%の罹患率といわれ、始めは軽症であっても次第に増悪し、最終的には難治化して喘息死に至ることも少なくありません。現在、気道炎症という新しい観点から気管支喘息の治療が見直されてきていますが、難治性喘息の症例は減少しているとは言えず、破綻に迫られている医療財政においても重要な問題といえます。
研究の目的
 緑黄色野菜に多く含まれるカロチノイドは、活性酸素を消去する抗酸化作用が強く、近年、ガンを始めとする生活習慣病の予防作用が期待されています。特に、トマトに多く含まれるカロチノイドの一つであるリコピンは抗酸化作用が最も強く、前立腺ガンなどに対して有効であるのではないかと期待されています。また、喫煙によって生じる過酸化物の還元活性がカロチノイドの中で最も強い事が知られています。
  そこで今回は、トマトに含まれるリコピンの新たな作用を見出すべく、気管支喘息患者を対象に、その血液中のリコピン濃度や、リコピンを豊富に含むトマトジュースを投与することによる効果について研究を行ないました。
 この研究は、順天堂大学の教育関連病院である医療法人社団 順江会 江東病院(東京都江東区)の田村尚亮先生と共同で行ないました。
期待される成果
 今回の結果より、トマトジュースに気管支喘息患者の症状を軽減する作用のあることが示唆 ウれました。
  特に、血液中のリコピン濃度の低い方で有効であると考えられます。成人気管支喘息は、根治することは困難であることから、その症状を無理なく改善させることが重要です。
 トマトジュースに含まれているリコピンに、最近、抗アレルギー作用のあることが判ってきており、トマトジュース中のリコピンが何らかの作用を示していることが推察されます。
  リコピンはトマトに多く含まれている物質であり、日々の食生活において、トマトを継続的に摂取することで体内のリコピン濃度が高まり、その効果が期待できるものと考えられます。
第43回日本呼吸器学会総会要旨
気管支喘息患者における血清リコピン濃度の低下に関する検討
【目的】
リコピンはカロチノイドの一種で、喫煙や酸化ストレスに反応し、血清中濃度が低下する事は既に報告した。最近EIA症例の一秒量低下回避にリコピンが有用であると報告された。そこで、入院加療を要した中等症以上の気管支喘息症例の血清リコピン値を測定した。低値を示した一部の症例ではトマトジュース(TJ;リコピン20mg含有)常飲が喘息症状を改善するかについて検討した。
【対象・方法】
喘息入院患者53例と280例の健常者で血清リコピンをHPLC法で測定した。15例に半年以上の予定でTJ飲用(1本/日)を継続し、PF値・呼吸機能、自覚症状、救急外来受診回数、入院日数の変化で検討した。
【結果・考察】
喘息のリコピン値は健常者に比し有意に低値(m±SD:0.184±0.149 vs 0.257±0.161;p<0.001)を示した。著明な低値を示した5例(男4、女1)は、いずれも飲用開始から2ヶ月以内に自覚症状の改善をみ、飲用中の救急受診、入院日数は減少した。PF値は飲用開始前に比して平均10%改善した。この成績は血清中のリコピンが喘息の症状発現に関与する可能性を示唆する。