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トマト由来カロテノイド(主にリコピン)の抗アレルギー作用を臨床試験で確認 ーカゴメ、日本薬科大学・おやまにし病院の共同研究ー

2005年9月29日

 カゴメ株式会社総合研究所(栃木県那須塩原市)は日本薬科大学・おやまにし病院(伊藤雅彦先生)との共同研究により、トマト由来カロテノイド(主にリコピン)が抗アレルギー作用を有する可能性があることを臨床試験により明らかにしました。
  なお、本研究内容は第55回日本アレルギー学会秋季学術大会(10月20日〜22日、盛岡市市民ホール・マリオス・ホテルメトロポリタン)において発表いたします。
共同研究者 日本薬科大学講師(おやまにし病院副院長)伊藤雅彦先生のコメント
 近年、喘息・アトピー性皮膚炎・花粉症に代表されるアレルギー性疾患の増加は現代社会の大きな問題になっております。現在、アレルギー性疾患の主な治療法は表面に現れた症状をおさえる対症療法が主ですが、アレルギーになりにくい体質をつくること(予防)が重要であると考えます。そのためには、食生活を見直すことや腸管免疫の強化が重要です。今回の研究結果は、トマト由来のカロテノイド(主にリコピン)の摂取が、ハウスダストに対する特異IgE値を有意に低下させることを明らかにしたものです。これまでも動物実験において、カロテノイドに抗アレルギー作用があることが示唆されていましたが、今回の結果を合わせると、トマト由来のカロテノイド(主にリコピン)摂取が1型アレルギーの予防に有効であると考えられます。即ち、動物性食品由来の高蛋白食、高脂肪食よりはトマト等の野菜を中心とした植物性食品が多い日本古来の食事(例えば精進料埋)や地中海地方の食事の優位性が示唆されたと考えます。
研究の背景
 近年、花粉症やアトピー性皮膚炎に代表されるアレルギー疾患の罹患者数は増加しており、現在、日本人の3人に1人は何らかのアレルギーを有するとされています*。現在のアレルギーの治療法は、主に病気の原因に対してではなく、その時の症状を軽減するための対症療法です。残念ながら、根本的な体質の改善による予防や治療には至っておりません。我々はこれまでに、国立医薬品食品衛生研究所(穐山浩 食品部第3室長)との共同研究で、人参ジュースの飲用がTh1/Th2バランスを調節し、1型アレルギーを抑制すること、また、その作用は主にβ-カロテンによるものであることを、動物実験(マウス)で明らかにしてきました(2003年度版ニュースリリース「ニンジンの抗アレルギー成分がβ‐カロテンであることを解明」)。また、徳島大学の寺尾教授との共同研究においても、リコピンの摂取がアレルギー反応を抑制することを、動物実験(マウス)で解明致しました(特許出願中)。そこで、臨床におけるトマト由来カロテノイド(主にリコピン)の抗アレルギー作用を日本薬科大学・おやまにし病院の伊藤先生と共同で検討しました。

*平成15年保健福祉動向調査(厚生労働省)

研究概要
◆目的
 カロテノイド摂取がTh1/Th2バランスを整えることにより、I型アレルギーの発症を抑制することが動物実験(マウス)で判っておりました。そこで、今回はトマトオレオレジンカプセルの摂取が、ヒトのハウスダストアレルギーに与える影響について日本薬科大学・おやまにし病院と共同研究を行いました。

◆試験内容
  本研究に対して同意が得られた成人を対象に、ハウスダスト特異的IgE陽性者(12名)の半数(試験群)にトマトオレオレジン(リコピン:10mg/粒)カプセルを毎日2粒、また半数(プラセボ群)に食物油含有カプセルを2粒、4週間に亘って摂取していただきました。ハウスダストに対する特異的IgE量の測定とプリックテストをカプセルの摂取前及び摂取2、4週間後に行ない、アレルギーの指標としました。また、血清カロテノイド濃度を測定しました。

◆試験結果
  トマトオレオレジンカプセルの摂取により、ハウスダスト特異的IgEが有意に減少し(図1)、プリックテストでは6名中1名が陽性から陰性へ移行しました(図2)。血清リコピン濃度及びβ-カロテン濃度は有意に上昇しました(図3)。一方、プラセボ群では、上記の結果は認められませんでした。
(図1説明)
   アレルゲン特異的IgEの測定値を、摂取期間の前後で比較しました。トマトオレオレジンカプセルを摂取した試験群において、ハウスダストに対する特異的なIgEの有意な減少が認められました。また、コナヒョウダニにおいても同様な結果が得られております。
(図2説明)
   トマトオレオレジンカプセルを摂取した6名の被験者の全員が、摂取前は陽性でしたが、4週間摂取後においては、1名が陰性に移行しました。
(図3説明)
   トマトオレオレジンカプセルを摂取した試験群においては、摂取2週目から、血清リコピン濃度の有意な上昇が認められ、4週目においては、摂取前の約1.6倍にまで増加していました。また、プラセボ群との比較においても、血清リコピン濃度は摂取2週目以降で有意に高値を示しました。リコピン以外のカロテノイドでは、摂取前後の比較において、β-カロテン濃度が有意に上昇しました。
 
トマトオレオレジンカプセルの摂取で、リコピンに代表される、トマトのカロテノイドが体内に蓄積することにより、ハウスダストやダニ等の1型(即時型)アレルギーに対して予防及び予防以上の効果が期待できます。
用語の説明
アレルギー:
  免疫は、体を異物の侵入から守るために人間が備えている精緻な自己防衛機能であり、生命の維持に欠くことができない。しかし、この機能が、生体にとって害にはならないものに対して過剰な反応を示し、人間にとって不快な症状を引き起こすのがアレルギーである。
  アレルギーは1型から4型までの4タイプに分けられるが、花粉症やアレルギー性気管支喘息、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーなど、身近なアレルギーの多くは1型に含まれる。
  1型アレルギーでは、花粉などのアレルゲンに対するIgE抗体が異常に産生され、それが肥満細胞からの起炎物質(ヒスタミン等)の遊離を促進し、くしゃみや鼻水等の症状が現れる。最近、このIgE抗体の産生は、2種類のヘルパーT細胞(Th1細胞とTh2細胞)によって調節されていることが明らかになってきた。この2種類のヘルパーT細胞のバランスが、Th2型優位に偏るとIgE抗体が過剰に産生され、1型アレルギー疾患が発症する。
 2型アレルギーは、マクロファージが異物を持った細胞を貪食(どんしょく:自分の中に取り込んで無害化すること)する際に出る酵素によって、周辺の組織に障害を起こすもので、自己免疫性溶血性貧血などがこれに相当する。
  3型はアレルゲンと抗体が結合した免疫複合体が、体内のあちこちに沈着するもので、腎臓の糸球体に沈着する糸球体腎炎などが含まれる。
  4型はキラーT細胞が正常細胞も壊してしまうもので、ツベルクリン反応や化粧品などによる接触性皮膚炎がその代表である。

Th1/Th2バランス:
  免疫を担当する細胞の中に、ヘルパーT細胞と呼ばれるものがある。この細胞は免疫機能を活性化する役割を持つが、その種類によって、活性化する免疫機能が異なっている。Th1細胞は、ウイルス感染細胞やガン細胞などを発見して、キラーT細胞やNK細胞などが直接攻撃する機能を活性化する。一方、Th2細胞は、B細胞によるIgEの産生を活性化する。Th1とTh2は、どちらかが高まればどちらかが抑制されるという、相反する関係にある。Th2細胞が優勢になると、IgEの産生が促進されることから、アレルギーを起こしやすくなる。よって、Th1/Th2バランスをTh1優位にすることができれば、アレルギーの発症を抑えることができると考えられる。

カロテノイド:
  主に植物に存在する、赤・橙・黄色の色素で、カロテノイドのうちβ-カロテンなどは体内でビタミンAに変換される。トマトにはリコピン(赤色)、ニンジンにはβ-カロテン(橙色)、赤ピーマンにはカプサンチン(赤色)が特徴的に含まれる。最近は、抗酸化作用による疾病予防作用が注目されている。

リコピン:
 カロテノイドの一種で、トマトに多く含まれる赤色色素である。強い抗酸化作用を示すとともに、前立腺がんなど、種々の疾病に対する予防作用が報告されている。

オレオレジン:
  エタノールなどの抽出溶媒で抽出したのち、溶剤を除去した脂溶性の抽出物。

プラセボ:
 ヒトにおける試験を行う際に対照として用いる、試験薬に似せた形状で、有効成分を含んでいない偽薬のこと。試験薬の効果は、この偽薬を摂取した対照と比較することで確かめる。

ハウスダスト:
  室内のちりやほこりのことで、即時型アレル Mーの主要なアレルゲンである。その成分は、ダニの死骸や排泄物、人間の垢やふけ、毛髪、ペットの毛、カビ、衣服、寝具、じゅうたんの繊維くず、食物のくずなどが含まれている。

特異的IgE:
  特定のアレルゲンとだけ結合するIgE型の抗体をいう。 (ダニ特異的IgE⇒ダニアレルゲンのみ結合)

プリックテスト:
  即時型アレルギーをみる皮膚反応試験の一つ。皮膚のすぐ下に存在する、マスト細胞に結合した抗原特異IgE抗体に、皮膚表面に傷をつけてアレルゲンエキスをしみこませて、その反応の様子でIgE抗体の有無、皮膚の敏感さ、体全体のアレルギーの強さを推測する。反応すると、浮腫により膨診という盛り上がりと毛細血管の拡張により紅斑がその周りにできる。

血清:
  血液を容器にとって放置した時、細胞成分と凝固成分が除かれてできる上澄み。淡黄色透明の液体で、免疫抗体や各種の栄養素・老廃物を含む。
 
【資料】 学会発表の要旨
 
第55回日本アレルギー学会秋季学術大会 発表要旨
トマト由来カロテノイドの抗アレルギー作用に関する研究

伊藤雅彦*,**、岩本容武**,***、中村真子****、菅沼大行****、稲熊隆博****
(*日本薬科大学、**おやまにし病院、***東京大学、****カゴメ株式会社総合研究所)
 
【目的】
  我々はカロテノイド摂取がTh1/Th2バランスを整えることにより、I型アレルギー発症を抑制することを実験動物で明らかにしてきた。今回はトマト由来カロテノイド濃縮物摂取がハウスダスト(以下HD)アレルギーに与える影響について検討した。

【方法】
  成人でHD特異的IgE陽性者(12名)の半数(試験群)にトマトオレオレジン(リコピン:10mg/粒)含有カプセルを毎日2粒、また半数(対照群)にプラセボの食物油含有カプセルを2粒、4週間摂取させた。血中の総IgE量、HDに対する特異的IgE量、プリックテストを摂取前、2、4週間後に評価した。同時に血清カロテノイド濃度をHPLCで測定した。

【成績】
  4週間のリコピン摂取により摂取開始前に比し血清中リコピン及びβ-カロテン濃度は有意に上昇し、特にリコピン濃度は対照群と比し有意に高値であった。試験期間を通じ血中総IgE量は有意な変動は認められなかった。一方、HD特異的IgE量は試験群において摂取終了時に有意な低下が認められた(p<0.05)。プリックテストでは対照群では摂取前後ともに全員が陽性であったが、試験群では摂取終了時に1名が陰性に移行した。

【結論】
  カロテノイド(主にリコピン)摂取により、ヒトでも I型アレルギー改善が期待される。