「土佐文旦」は、高知県下・土佐市、須崎市、宿毛市などで盛んに栽培されています。
今回お訪ねしたのは、高知県最西端に位置する宿毛市の文旦畑。宿毛湾を望む里山に等高線を描くように、山の天辺まで段々畑が築かれています。
杉の防風林で仕切られた園地は、まるで美しい洋風ガーデンのよう!農家のみなさんの丹精ぶりが一目でわかる光景です。
以前、シークヮーサーご紹介頁にも書きましたが、上手な生産者の畑は例外なく美しい!のです。
枝がたわむほどに大きく実った「土佐文旦」に目を細めながら、「こんなに手間のかかるミカンは他にはないわなぁ」と語るのは文旦農家2代目の山口さん。
5月に花が咲いたら「受粉」作業、真夏の炎天下での「摘果」作業など、収穫までの7ヵ月間、目が離せません。
「ほんでも、こんなこんまい棚田で米だけつくりよったら、後継ぎもようでけんかったわなぁ。
文旦に転作したおかげで、ここいらの農家が続いちょる」。まさしく文旦の山は黄金の山。手間がかかる分、愛着もひとしおです。
長崎では「ザボン」、鹿児島では「ボンタン」とも呼ばれている「ブンタン(文旦)」は、タイ~マレー半島産の大型柑橘がルーツ。
グレープフルーツもブンタンから生まれたものです。
「土佐文旦」は、昭和4年、鹿児島の「法元文旦」を移植し、接ぎ木で増やし育てた苗木が高知県下で広く栽培されるようになり、今では県の特産果実になりました。
なんと直径12~15センチ!真ん丸で、真っ黄色、独特の上品な香りが印象深い柑橘です。
新緑の1月。段々畑が連なる里山は、いろいろなミカンの香りで満たされます。
ひときわ大きく華やかなのが「土佐文旦」の白い花。一つの塊になって“ブーケ”のようです。
さあ、花がしぼまないうちに、短期決戦の受粉作業開始!「ぽつぽつと咲き始めたら、そこから1週間の勝負やな。
文旦は人が受粉作業をしてやらないといかん。うまく受粉できなかった文旦は、三角おむすびみたいな形になるけん。
きちんと受粉させてやると、真ん丸になって実もパッチリ入る」。
“ブーケ”の中から、なるべく下向きの花を選び、あらかじめ採取しておいた「小夏」というミカンの花粉を、小さなポンポンでていねいに雌しべの先につけていきます。
受粉させる花を見極めるのにも、熟練が必要なのです。「小夏がいちばん文旦の開花とタイミングが合うし、花粉も多いで、小夏の花粉を集めて乾燥させておく。
今まで機械を使ってやってみたりしたけど、やっぱり人間の手が一番やな」。
文旦は、100枚の葉で1個の実を育てよ、と言われるそうです。一度にたくさんの実を実らせてしまうと、樹に負担がかかりすぎるからです。
そこで行われるのが「摘果」作業。ふくらみ始めた果実を、日当たりや、生育のタイミングを見計らいながら、1回目、2回目、3回目…と段階的に実を落としていきます。
1本の樹に、最終的に何個の実を残すのか、どれぐらいの大きさの実に育てるのかを決めるのは生産者の腕の見せ所。
翌年の樹の回復具合も計算にいれながら、大玉○個、中玉○個…というように育てあげます。これで1年の収入が決まる大事な作業。
炎天下で文旦を見つめる目も厳しくなろうというものです。
今こそ、長年の経験がものを言うとき!「干ばつの年、雨が多い年、お天気ばっかり続く年…データをとってはいるんだけどね。
自然が相手だからねぇ、変えようにも変えられん。変えられんもんは逆らうより、味方につけることが大事やね」。
「昔はこのミカン、皮がぶ厚うてな、切ると皮が半分くらいやった。
今は品種改良が進んで、皮も薄うなった。でも、この皮もマーマレードにするとおいしいんで!栄養もあるしな。
捨てるとこがないけん、人気があるし、固定ファンがついちょる。
毎年待っていてくれるお客さんは、善し悪しをよう知っちょるけん、手ぇを抜かれへん(笑)」。
山口さんが、自分では「今年の出来はイマイチ」と思って送りだしても、お客さんの声はまた違ったりすることもあるとか。
お客さんの住む地方や、年齢などによって反応が異なるのが、また楽しみだそうです。
「一人前に文旦がつくれるようになるまでには10年かかる。毎年、今年も100点取るぞ、と思ってやりよるけど…」。
ベテランの山口さんでも、近年の異常気象には泣かされているそうです。
「毎年、同じようには育たんけん、死ぬまで勉強!そこがおもろいな!」。
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