有田川の左右の里山には、てっぺんまで段々畑が整然と等高線を描き、みかんが植え込まれています。
温暖な気候、水はけのいい斜面の畑など、みかん栽培に適した気候風土が、全国有数のみかん産地を形成してきたんですね。
それも、450年以上も前から!「斜面がきつい段々畑では命がけの作業やけど(笑)、ご先祖さんたちが有田川の河原から石を担ぎ上げて築いてきた石垣の段々畑、ここのみかんは、やっぱり味がええなあ」と語るのは、みかん農家4代目の猪谷(いだに)さん。
「みかんには表年と裏年とあって、収穫量が大きく変わる。この差を少しでもなくすようにつくるんが、農家の腕なんやね。それは春の剪定から始まって、花の付け具合、青い実の時の摘果…、1年を通じて、ええ実りになるようしっかり見極めてつくるんよ」。
雨は神頼み、日照りが続いていよいよとなれば散水車の登場です。「今は、水さえも買う時代なんよ」。すべてはお客さまの「おいしい!」の一言のために、ですね!
和歌山県有田郡有田川町は、有田川が真ん中を流れる山間の町。その周辺でつくられている「有田みかん」は、紀州蜜柑の代表格です。
その栽培の歴史は古く、1500年代には紀州蜜柑(みかん)が、当時の戦国大名や公家たちに献上された記録が残っているそうです。
1619年徳川頼信が紀州藩主に着任後は、産業振興のために栽培を推奨し、紀州の特産品として船便で江戸にも送られました。紀伊国屋文左衛門のエピソードも有名ですね!
「ここの柑橘部会は766人の会員がおって10,000トン以上出荷する。日本でも5本の指に入る産地なんよ。皆85歳ぐらいまでは現役やね(笑)。
親父たちは50年以上の経験値を持つ人がようけおるけど、新しい技術や知識に関しては、僕ら若いもんがまさってる部分もある。近頃は気候変動も激しくて、親父世代の経験測があてはまらんことも多くなってきてるから、僕ら青年部が頑張って勉強せんとね」。
30~40代が中心の青年部のメンバーは、上の世代と下の世代をつなぐ役割。「会社でいえば中間管理職のようなもの」だそうです。
「もっと若い子らに、みかんの魅力を伝えたい。若い仲間を増やして、もっとみかんの話を熱く語りたい!ってのが、目下の悩みかな~(笑)」。
石垣の段々畑は、お城の城壁をつくる石積みの技術。それを伝える人がいなくなり、ブロック積みで代用する人も増えてきたとか。歴史と伝統を誇る有田川町の景観ですが、少しずつ変化していくのかもしれませんね。
大学で出合った唯衣(ゆい)さんと結婚し、その実家でみかん農家を継ぐことになった古家健太クンは、目下「お義父さんを先生」に修行中。
「うちは栽培面積が広いので、栽培技術云々の前に、まずは作業の段取りを覚えて準備や手配をすることに追われています。みかんを始めて、あっと言う間の5年やった(笑)」。
それぞれのみかん農家に、独自のつくり方があります。「その家の『家伝』とでもいうんかなぁ、そんなもんがあるんですよ。
たくさん収量を上げたい人、早出しにこだわる人、いろんな品種をつくって試したい人…それぞれのやり方・家伝のなかで、「自分値」を見つけ出そうと励んでいるんだろうと思いますよ」。
後継ぎさんたち、頑張ってくださいね! ところで、一番楽しいことって、なぁに? 「やっぱり収穫して食べたときに美味しいのが一番かな、柑橘、好きなんで(笑)。
とりあえず味見するときは、一番いいところの樹を狙っていく(笑)」。それは農家の特権ですね! 「僕は収穫作業中も水代わりにみかん食べとるし、シーズンになったら手のひらも足の裏まで黄色くなりますよ(笑)」。
みかんは花の時期に自然落花といって、自らの負担を軽減するように花を落とします。青い赤ちゃん果実の時にも、体力を温存するように、ある程度は実を落としてしまいます。
賢い植物なんですね。「さらに人間が手をかけて、陽当りのいい枝を伸ばすように剪定したり、風通しを良くしたり、摘果して間引いたり、もちろん肥料を加減するとか、ちょっと世話をしてあげると、ええもんができます。
みかん特有の栄養もあって健康づくりにも役立つし、美味しいし。友達に送って喜んでもらえたら、すごく励みになりますね」収穫を前に、たわわに実った畑を見ると、うれしい反面、「これ全部ちぎる(収穫する)んか~」と腰が引ける時こともあるのだとか。
でも、喜んでくれる人の笑顔を思い浮かべて、頑張ってくださいね~!生産者の皆さん!
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