四国や九州には、ユズやダイダイ、スダチなど、酢みかんの穏やかな酸味や、独特の香りを調味料とする食習慣が根強く残っています。
それが全国にも広まって、カボスやジャバラなど、地元でしか知られていなかった香酸柑橘類が注目されるようになりました。
「直七」も、そんな酢みかんの一つです。他の柑橘同様に、水はけのよい土地・陽当たりを好むので、ミカン畑の隅っこに植えられていたこともありますが、
宿毛市で直七を生産しているその名も「直七生産株式会社」では、他の柑橘との交雑をさけるために、山中を切り拓き、隔離した畑で栽培しています。
「直七」の純血を守る…そのために、農作業には少し不便でも山中の畑で栽培することを選択したのです。市街地から離れた山中のきれいな空気、清浄な水なども自慢のポイント。
希少な「直七」の遺伝子を守り、清浄な環境で育てることにこだわっています。
高知県宿毛市周辺。地元の人たちに古くから愛されてきた酢みかんが「直七」。その昔、「魚にかけるとうまいよ~」と広め歩いた行商さんがいて、彼の名前「直七」がその酢みかんの名前になったそうです。
昭和23(1948)年に刊行された「日本柑橘図譜」(田中諭一郎・著)にも、スダチの仲間の項に、ちゃんと「直七(Naohichi)」として紹介されています。
その希少性から「幻の柑橘」とも呼ばれ、今や、全国から注目を集めている「直七」、独特の爽やかな香りと、ジューシーな味わいが人気のヒミツです。
「香酸柑橘類は、皮ごとぎゅっと搾って、爽やかな香りや酸味を楽しみます。なので、農薬を使わずに栽培し、
元気な素のままの「直七」を育てて収穫することに最大限の注意を払っています」と語るのは、直七生産株式会社の三松さん。
直七の花が満開を迎えるころ、他の柑橘類は害虫防除に追われる時期ですが、「直七」の畑ではミツバチがぶんぶん飛び交って、受粉をサポートしています。
早朝、人気のない畑では、クモの巣が大きな網を張っています。「2年生の苗を定植して4年ぐらいから収穫できるようになる。
若い樹は皮が分厚くてゴツゴツしよるけど、年数がいくと、皮も薄うなって、汁も増えてくるんです」と話すのは、同じ会社の久保さん。
お父さんの後を継いで直七農家になって5年。「僕が家業を継いだ頃に植えた直七が、やっと8年生ぐらいになった。
だんだん良うなってくるのを見るのはうれしいなあ」と目を細めます。直七と一緒に、久保さんも成長していくんですね!楽しみです。
10月7日を「直七の日」と決めたのは、「直」の字に「十」が含まれていることと、「七」にちなんでのこと。もちろん、この時期に収穫を迎えるタイミングだからこそ、ですけど。
各地でイベントを開催して、直七の美味しさを味わっていただこうという試みも回を重ねています。直七さんが勧めて歩いたように、魚はもちろんですが、
肉や野菜、飲み物からスイーツまで、直七の果汁を使ったメニューがお披露目されます。一方、収穫が最盛期を迎えた畑では、助っ人を頼んで、収穫作業が急ピッチで進んでいます。
というのも、黄色く熟す前の緑色の果実の方が香りが高いから。「緑の葉っぱに緑の果実でしょ。結構見逃して、取り残してたりする。
黄色くなってから、あれ~こんなに残してたんや~とかね」と苦笑いの久保さんですが、収穫期の笑顔は一年中でいちばんいい笑顔ですよね!
当初「直七生産組合」でスタートし、2015年に、三松さんの他に、浜田さん、久保さんの3軒の農家さんが集まって「直七生産株式会社」がスタートしました。
自分たちで育てた直七を、自分たちで果汁を搾る…そう決めてから工場に搾汁ラインを導入し、講習を受け、すべて自分たちの手で一貫管理ができるようになりました。
「だいたい、1日10トンぐらいを搾ってます。人数が少ないから一人で何役もこなさないとね」と元気に応えてくれたのは浜田さんチ(家)の奥さん。
「畑と工場と、どっちがいいの?」と問いかけたら…「そりゃ、畑でみかんつくっとる方がせいせいするけんどなあ(笑)。
ほんでも自分でつくったみかんを搾るんは、最初から最後まで面倒みとる気分になるけん」と傍らで浜田さんが笑います。
全国でも珍しい、生産者自らが育てて、果汁を搾る姿が、とても頼もしく見えました!
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