「甘夏」の一大産地だった熊本県不知火町。「甘夏」人気が下降線をたどり始め、代わりの次世代ホープを育てようと「デコポン」に注目しました。
見かけが悪い(凸!)上に、収穫したては酸っぱい!でも、何ヵ月か倉庫に保存しておけば酸が抜け、独特の香りと酸味・甘味のバランスのいいミカンになることが、
むしろ強みになるのではないか…一抹の不安を残しつつも、生産者組合をあげて「デコポン」栽培に取り組むことにしました。
「デコポンと運命をともにする!」との、不退転の決意だったのです。そのデコポン導入時からのパイオニアのお1人が坂下さん。
「いっぺん、皆で決めたことばい。よっしゃ!やっちゃる!という意気込みだったな」と当時を振り返ります。
5年ほどの試験栽培を経て、平成3年(1991)年初出荷。たちまち市場の人気を得て、「デコポン」という愛らしい名前が全国に知られることになりました。
「デコポン」は「清見オレンジ」と「ポンカン」を交配して昭和47年(1972)に誕生しました。
しかし果実の特徴である凸が不評で、長い間忘れ去られた存在でしたが、昭和60年頃から、熊本県をあげて普及に取り組み、今や県を代表する柑橘ブランドに!
品種名は産地に因んだ「不知火」ですが、商品名を「デコポン」と親しみやすい名前にしたことも、広く愛されるようになった理由のひとつかもしれません。
デコポンの実を1玉実らせるのに、およそ100枚の葉っぱが必要だそうです。
広さでいえば、両腕を広げて描いた四方の範囲内に12~3玉ぐらい。おいしい果実を得るための、おおよその目安です。
柑橘類には、満開期以降に自分の身体に負担がかかり過ぎると、花や小さな実を結んだ雌しべを自然に落として実の数を調整してしまう習性があるそうです。
これを生理落果と呼んでいます。花の8~9割が落ちてしまうとか!でもそれぐらいがちょうどいいのです。
「デコは、自分で余分な花や実を落としてくれるけん、賢いわなあ(笑)」と坂下さん。
農家さんは、満開期以降に枝をふるって花を落としてやり、生理落果をサポートします。
むろん、実をつけた後も、両腕を広げた広さに12~3玉、の目安で実を間引くこともあります。
花をつける前の剪定作業でも、丈夫な枝を伸ばし、余分な花を咲かせないように、計算しながら整枝します。
デコポンの樹は一年で終わりではありません。翌年の実りのことも考えながら、実らせる球数を決めて育てるのです。
デコポンの実が大きく重くなることで枝がたわんで折れたりするのを防ぐために「枝つり」や「玉つり」と呼ばれている作業を行います。
ハウス内であれば、天井の梁からつりおろしたひもを結んで枝を支えます。露地の園地では支柱を立て、たわんだ枝を誘引することも。
ひと玉ひと玉、太陽に当たるように気を配りながら、すべて手作業で行う根気のいる作業ですが、このひと手間が品質のいいデコポンに仕上げるコツなのです。
収穫は通常は12月下旬から。園地ごとにデコポンの糖度・酸度をチェックして判断されます。
ズシリと重たいデコポンの手応え!収穫後はいったん農家の倉庫で保存され、酸味が抜けたら選果場へ。
選果場では光センサーで糖度・酸度をチェックし、基準に合格したものだけに「デコポン」のラベルが貼られて出荷されています。
「一年の苦労が報われるときや。デコポンは農業の大変さやおもしろさ、手ごたえを実感させてくれた。オレらにとってかけがえのない存在」。
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