「とちおとめ」は栃木で生まれた品種。大粒でたくさん実る「久留米49号」を父、大粒で味の良い「栃の峰」を母として誕生し、1996年に「とちおとめ」と命名されました。
現在では栃木県のイチゴの9割が「とちおとめ」で、主に首都圏に出荷されています。
ほぼ20年間、栃木のイチゴの代表選手を自認してきたイチゴだけに、地元愛を一身に受けている存在。
子どもの頃から「とちおとめ」をおやつがわりに育った生産者さん(今の20~30代)の中には、いろんなイチゴが出回り始めても「とちおとめ」しか食べない、という人も多い。
「やっぱ、日本で一番うまいイチゴだと思ってるよね」、「なんだっつうても、栃木のイチゴだもんね」と話す言葉に自信がみなぎっています。
イチゴはクリスマス・シーズンが最需要期。本来は初夏のフルーツなのに、半年も前倒しで促成栽培されて出荷される果実なんですね。
栃木県が生んだイチゴの代表選手、その名も「とちおとめ」。夏の間、冷涼な温度で管理して花芽を分化させ、秋の初めに定植。
平均20℃の温室のなかで花を咲かせ、実をつけさせます。これから冬を迎える季節なのに、ここだけ、ひと足もふた足も早い春がやってきました!
昔は、夏の間の冷涼な気候を求めて、日光の戦場ヶ原までイチゴ苗を運び、秋口に麓の畑にもどして定植する「山上げ」という方法をとっていました。
いまでも「山上げ」をする人たちもいますが、温室全体を遮光して水を流す水冷方式で冷涼な環境を人工的につくりだしてイチゴ苗を育てる農家さんも増えています。
栃木県壬生町の梁島さんも、その一人です。「毎朝、ハウス内の温度と、イチゴ畑の地温をチェックする。
ハウス内の気温は昼は25℃前後、夜は8℃ぐらい、また地温は15℃ぐらいに保つのが大事なのさ。
あと、地中の水分調節ね。根っこを丈夫に育てるのが肝心。でも、かれこれ30年ぐらいイチゴをつくっているけど、この頃の気候変動には泣かされっぱなし。
年々気温が高くなっているから、病気も出やすくなっている。
気象条件に合わせた栽培が一番難しいね。あとは、土づくり。毎年同じハウスで栽培するから連作障害も出やすい。
土の消毒と肥料のやり方に、農家の腕の差が出る。窒素・リン酸・カリの基本に加えて、僕なりの秘密の肥料をちょこっと混ぜてる。え、何かって?
そこは企業秘密よ(笑)」。
イチゴはタネをまいて育てる作物ではありません。親株から伸びる茎(ランナー)の先についている赤ちゃん株を切り離して、子株を増やしていくのです。
基本、親と同じ遺伝子をもつクローンですから、いったん病気が発生すれば全滅…ということもありうるのです。
このため、枯れ葉や傷んだ葉を徹底的に取りのぞき、1株につき丈夫な葉を8枚程度に保ちます。
また、デリケートなイチゴのおいしさをお届けするために、農薬はなるべく使わない方針。
ダニなどの害虫には天敵を使った予防策で対抗しています。柔らかい果実だから、収穫のときも気を使います。
果実を手のひらにそっと包み込むようにしながら、ヘタの根元の茎をクイと曲げて「ちぎる」のだとか。
茎のカーブの反対側に曲げてやるのがコツだそうです。そして収穫後は、家族全員で選別しながらパック詰め作業。
一見どこも傷んでいないように見える真っ赤なイチゴも、ほんの少し先端が柔らかいとアウト!店頭に並ぶ頃には、その部分から傷んでいることが多いそうです。
梁島家の跡取りは4人兄弟の長男坊。「高校でたら、否応なしに農業大学に送り込まれてた」と爽やか~な笑顔。父の背中を見ながら10年目。
イチゴづくりの面白さがわかってきたところだとか。「とちおとめは優れた品種だから、普通にやっていれば味も良く仕上がる。
収入もいいし、初めて就農する若い人も、やりやすい作物だと思う」と話す視線の先には、同じ年頃の男性3人。
聞けば同じ高校の同級生たちで、今年からイチゴづくりに挑戦しているのだとか。
その中で、サラリーマン家庭からまったく初めて農業にたずさわる男性は、ただいま研修生として勉強中。
同じぐらいの若い人が仲間に入ってくれるのはうれしいよね? 「やっぱり励みになりますよね。
同じ組合員同士、ライバルでもあるけど、それ以上に仲間意識の方が強い。
一軒だけが良くても、みんなが上手につくっていかないと産地全体として評価されないから、高値で取引してもらえない。
やっぱ運命共同体って感じかな」。イチゴの可憐で真っ白な花が、真っ赤なふくよかな果実に育つように、若き農業人たちの夢も膨らんでいるようです。
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