中国や、欧米では「黄桃」が中心ですが、日本で栽培されているのは、ほとんどが「白桃」。
「白桃」は日本で品種改良され、日本人に愛されて様々な品種が生まれてきた桃なのです。
「川中島白桃」を発見した川中島の農家・池田さんの畑には、今もその原木が生きています。
「最初に父が市場に出したとき、美味しくて日持ちがいいと評判になった。
桃はすぐに柔らかくなるので、地域流通が主流だったからです。
なんという品種?と聞かれ、『池田1号』とでも呼んでくれ、と。無欲の父でしたね」と回想する池田さんご夫妻は11代目の後継者。
池田1号が生まれた当時10歳ぐらいだった裕子さんは、室(むろ)にこもって、黙々といろいろな桃の花粉をつけて試す父の姿を覚えているそうです。
「ここに自生する野生の桃を父は花桃と呼んでいましたが、それを台木にしたり、その花粉を人工授粉させてみたり、いろいろ工夫していたようです」。
先代の不断の努力が実を結んだ白桃は、土地の名を冠して「川中島白桃」と命名されたのでした。
武田信玄と上杉謙信の合戦で有名な長野県・川中島。長野を代表する「川中島白桃」は、その川中島町にある池田さんの農園で昭和38年ごろに発見され、
昭和52年に命名された「白桃」系の品種です。大ぶりで果肉がしっかりしていて日持ちがよく美味、というので人気になりました。
お盆過ぎ、8月中~下旬に熟す晩生種。過ぎゆく夏の名残りの桃でもあります。
「川中島白桃」は樹勢は強いのですが花粉が少なく、果実を実らせるためには受粉用に別の桃を育てなければなりません。
花粉が多い「あかつき」や「なつっこ」という品種が多く使われています。
4月半ば、日当たりのいい枝先で薄桃色のつぼみがほころび始めました!「ここから10日間ぐらいが忙しい!
花粉を採りながら花粉をつけていくのでね」と池田さん。お天気がいいと次々に花が開いてしまうので、
早朝から蕾を摘んだり、花粉をつける作業に追われます。風船状にふくらんだ開花前の蕾を摘んで(摘蕾)、
花粉を採り(解葯)、風の穏やかな日を選んで、毛バタキなどを使って人間の手で受粉させていきます。
「咲始めはピンクが薄く、1~2日たつと赤みが濃くなる。授粉にはちょっと花が赤くなった時の方がいいんです」。
ゴールデンウィーク、美しい桃源郷で農家さんは時間との競争に追われます。
摘蕾のとき、余分な花も間引いて(摘花)樹の負担を減らします。
さらに満開からおよそ3週間、梅の実ほどの大きさになったら果実を間引きます(摘果)。
一度に間引かずに、果実の状態や天候などをにらみながら、数回に分けて間引き、
袋掛け前に「仕上げ摘果」。残す果実の数は、葉っぱ40~50枚に果実1個程度、が目安だそうです。
それから果実に袋を掛け、果実が膨らむのを待ちます。
「仕上げ摘果は、収量に直結するから人任せにはできません。
時間がかかっても、すべての樹を自分の目で確かめないとね」。
枝を見上げながら果実に袋をかぶせていくのは首や腕が痛くなる作業です。
1時間に200袋ぐらいをかぶせられたら、まあ合格!ベテラン農家は300袋ぐらいをかぶせるそうです。
良果を見極めつつ、しっかり丁寧に。5分に1個ずつ、毎日5~6時間!美味しい桃づくりのためのご苦労に頭が下がります!
お盆が過ぎると、いよいよ収穫の時期。ピンクに色づいた果実をもいでいく作業は、大変ながらも心躍る作業です。
「毎年気象条件が違う中でも、なるべく大きさを揃え、品質のバラつきを少なくして美味しく仕上げよう、と心を配って3ヵ月。
その結果が表れるわけですからね。いい粒が揃った年は達成感があります」と池田さん。
「フルーツのブランドは20年で淘汰されるといわれますが、川中島白桃は約半世紀の間、白桃の代表的な品種として愛されています。
このブランドを受け継ぎ、産地を守っていくことに喜びを感じます」と誇らしげな笑顔。
「父が植えたこの原木も年をとって、そろそろ植え替えの時期に来ているんですけど、なかなか思い切って切り倒すことができなくてねえ」。
視線の先に、風格すらかんじられる「川中島白桃」の原木が大きな枝を広げていました。
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