巨峰農家 長野県・大澤さん

長く「ブドウの王様」として愛され続けてきた「巨峰」長く「ブドウの王様」として愛され続けてきた「巨峰」
人類が古代から利用していたブドウ。“ブドウ糖”と名前が冠されるほど甘く熟して、美味しいお酒もつくれる…古今東西を問わず愛されているフルーツですね! 数多くの品種が誕生しましたが、「巨峰」は、日本で交配を重ねてつくられた品種。黒紫の大粒で、甘くて渋みが少ない果肉、独特の芳香、そのサクッとした歯触り…などから「ブドウの王様」と呼ばれ、 ギフトなどにも根強い人気を誇っています。
ひと房35粒、400gぐらいに仕上げるのが農家の腕の見せどころ
ひと房35粒、400gぐらいに仕上げるのが農家の腕の見せどころ
巨峰の生産高全国一を誇る長野県。白馬連峰~黒姫・妙高高原を見渡せる須坂市は、年間降水量が少なく、昼夜の寒暖差が大きいなど、ブドウづくりに最適な条件を備えた土地です。 山裾いっぱいに広がるブドウ棚の下で、大粒の実をつけたブドウの房が揺れる様子は圧巻のひと言。そのたわわな実りの裏には、ひとかたならぬ農家さんのご苦労がありました。 大澤さんはこの地で代々、リンゴやブドウをつくり続けてきた農家さんの惣領息子さん。果樹研究所に勤めていた経験を活かして、ブドウを育てています。 「巨峰の玉(粒)は大きけりゃいい、ってもんでもないのよ。ひと房だいたい35粒、400gぐらいに仕上げるのが、農家の腕の見せどころなのさ! そして、それは花の時期の房切り作業でほとんど決まってしまうの」。え?ブドウの房を切ってしまうんですか!?どういうこと?
小さな花の一つ一つが実になります
花の時期の「房切り」は、時間との勝負!
花の時期の「房切り」は、時間との勝負!
6月初旬、ブドウ棚に若々しいツルが張りめぐらされて、その先に緑色のフワフワしたものが垂れ下がっています。 よくよく目を近づけて見れば、一つひとつの小さな玉の先に黄色いシベが伸びています。これがブドウの花です。 初めは苞をかぶっていますが、雄シベと雌シベが苞を押し上げるように伸びてきて、苞を落としてしまいます。受粉した雌シベの根元にぷっくりとふくらんだ小さな玉が、巨峰のひと粒になるのです。 そして、巨峰の花が咲いている10日間ほどの間に、花房の先端5~6センチを残して花を摘みとる作業をします。これが「房切り」です。 この作業によって房の大きさが決まってしまうので「房づくり」と呼ぶ人もいます。「これをしないと、花が自然落花してしまって、玉が大きくならないの。 自然落花は、花ぶるい、とも言うんだけどね」と大澤さん。とにかく、花が咲いている10日間が勝負!毎年おなじみの手練れの助っ人さんを頼みながら、てんてこまいの毎日が続きます。
ブドウ棚の下は、気持ちいい風が吹いている
ブドウ棚の下は、気持ちいい風が吹いている
房切りが済んだブドウ棚では、玉が静かに大きく育っていきます。初夏の日差しを受けて、葉が適度に生い茂り、ブドウ棚の下を心地よい風が吹き抜けていきます。 「僕は、畑の下草はわざと生やしてあるの。その方が適度な水分補給になるからね。人が気持ちいい畑の方が、ブドウにとっても気持ちいいんじゃないかなあ(笑)」。 ほんとに、ベッドを持ちこみたいぐらい気持ちいい畑ですね!7月に入り、緑色の玉が大きくなったタイミングで、玉を間引く「摘粒」という作業をします。 粒と粒の間に適度なゆとりを持たせ、ひと房35粒ぐらいに残して仕上げていきます。「この作業は、奥さんたちに任せてる。なぜかわからんけど、女性の方が上手なんだよね~」 と笑う大澤さん。ブドウの葉っぱから漏れてくる優しい日差しと、ひと粒ひと粒を見つめる農家さんたちの眼差しが、巨峰をおいしく育てるんですね!
最後までそっと優しく丁寧に!
いつでも、最高のブドウづくりをめざして
いつでも、最高のブドウづくりをめざして
巨峰が色づく前、病気の予防や鳥・害虫から実を守るために「袋掛け」をしたあとは、「じっと待つ(笑)。ときどき袋の中をのぞいて見るけどね(笑)」と大澤さん。 房の肩までまんべんなく色づいているかどうか、粒の大きさなどをチェックするのです。そして…9月中旬、黒紫色に色づいた巨峰の収穫が始まります。 そっと袋をはずして、玉の表面についた白いブルーム(粉)に触れないように収穫します。巨峰のブルームは新鮮さの証し。 玉の大きさや数、房の重さとともに、ブルームのつき方も選果場でチェックされるので、箱詰めする最後まで気が抜けないそうです。 「10年ぐらいたって、何となく思い通りのブドウづくりができるようになるかなあ。最近は種なしブドウが食べやすいと人気があるけど、やっぱり自然のままに種を残した巨峰の方が甘い傾向はあるんだよね。 だから北信濃エリアでは種ありブドウをつくっている人がまだまだ多いね。あと、やっぱり、地元で交配してつくったナガノパープルという品種が、ポスト巨峰として注目され始めてる。 巨峰みたいに長く愛されるブドウに育てていたいなあ、と思う」。大澤さんのブドウづくりの情熱は、尽きることがないようです。
芳醇な香りをお楽しみください!