トップメッセージ


競争力と持続性を兼ね備えたバリューチェーンへの進化に向けて

創業から培ったバリューチェーンと農業が直面する新たな課題

カゴメトマトジュースは、2023年に発売90周年を迎えました。
長きにわたりご愛顧いただいているトマトジュースですが、2023年の出荷量は記録が残る2007年以降で最高になりました。その要因を調べてみると、美容に関心の高いお客様がトマトジュースの新しいユーザーになってくださっていることが分かりました。
発売から90年を経てもトマトジュースが新しいお客様にご支持いただいていることを大変うれしく思います。原材料となるトマトの品種開発を続け、栽培方法を工夫し、製造工程を改善してきた一つひとつの取り組みが報われた気持ちになります。このように、カゴメは畑から食卓までのバリューチェーンを創業時から地道に進化させ、農から価値を生み出しお客様にお届けする力を磨き続けてきました。その歩みは、「自然をおいしく楽しく」というブランドステートメントや「畑は第一の工場」というものづくりの考えに集約されています。
一方で、カゴメの強みである農から価値を形成するバリューチェーンが、近年、原材料の調達リスクに直面しています。
気候変動の加速が熱波や干ばつの発生頻度を高め、農業生産に大きな影響を及ぼすようになったからです。実際に、カゴメ商品の主な原材料であるトマト・にんじん・リンゴなども、収穫量や品質の面で様々な影響を受けています。
このように農産原料の安定調達が困難になる時代の中で、カゴメが持続的な成長を実現していくためには、気候変動に起因する農業の課題としっかり向き合っていかなければなりません。そして、自らの手でそれらの課題を一つひとつ解決し、カゴメのバリューチェーンを競争力と持続性を兼ね備えたさらに強いものに進化させていく必要があります。

農業研究の強化とIngomarの連結子会社化

2023年から、強いバリューチェーンへの進化に向けた具体的なアクションがスタートしています。
一つは品種開発・栽培技術開発など、バリューチェーンの最も川上に位置する農業研究の強化です。2023年10月に、これまで国内外に分散していた品種・栽培技術の開発部門を一つに集約した組織「グローバル・アグリ・リサーチ&ビジネスセンター」を新設しました。このセンターに、カゴメ総合研究所傘下の農資源研究部や種子の開発・販売会社であるUnited Geneticsグループ、AIを活用した営農支援を手掛けるDXAS Agricultural Technology LDA(以下、DXAS)などを集め、ラボレベルの研究開発から実際の畑での試験栽培までが一つの組織で可能となる体制としました。さらに、2024年4月には、農業の最先端技術が集まるカリフォルニア州に、グローバル・アグリ・リサーチ&ビジネスセンターの米国法人を設立します。今後は、この組織に研究資源を集中的に投下し、それぞれの機能の連携を深め、農業技術の開発スピードを上げていきます。
もう一つが、米国Ingomar Packing Company, LLC(以下、Ingomar)の連結子会社化です。これについても、2023年から本格的な検討を進め、2024年1月26日に対外発表を行いました。
Ingomarはカリフォルニア州に拠点を持つトマト一次加工会社で、トマトの加工量では、 米国第2位、世界第4位のポジションにあります。トマト生産農家が出資して設立された企業であることから、畑との結びつきが強いところが特徴です。
私たちはこれから、Ingomarの持つトマト原料の調達基盤に、グローバル・アグリ・リサーチ&ビジネスセンターが研究開発した新しい品種や栽培技術をインストールし、実用化のための大規模な検証を行うシステムを作り上げていきます。そして、そこから得られた多くの知見を世界に展開し、農業が直面する課題の解決につなげていく考えです。
グローバル・アグリ・リサーチ&ビジネスセンターの新設やIngomar連結子会社化の検討を行った2023年は、競争力と持続性を兼ね備えた強いバリューチェーンへの進化に向けたターニングポイントの年になったと思います。

第3次中期経営計画の進捗と、2025年に向けた取り組み

難局を乗り越え、変化対応力を磨いた前半2年

2023年は、現在進めている第3次中期経営計画においても、ターニングポイントの年になりました。
第3次中期経営計画は、2022年から2025年までの4年間を対象期間としています。その前半の2年には、約3年間続いたコロナ禍が収束に向かうという明るいニュースがありましたが、その一方で、ウクライナ情勢や自然災害の多発など経営に大きく影響を及ぼす出来事が発生しました。
カゴメもそれらの影響を受け、トマトをはじめとする様々な農産原料において、これまでに経験したことのない価格高騰に直面しました。特に2023年においては、主原料であるトマトペーストの市況が大幅に上昇し、それに伴う収益の悪化を食い止めるべく、グループ一丸となって対応を進めました。BtoBビジネスが中心の国際事業においては、全ての得意先との価格改定商談を計画的に実行しました。国内事業においては家庭用食品・飲料、業務用のほぼ全商品の価格改定を2023年2月に行うとともに、価格改定に伴い一時的に落ち込む需要を回復する活動に注力しました。さらに、メーカーの責務として、原価低減や生産性の向上に取り組みました。
一つひとつの施策について危機感を持って遂行した結果、2023年の業績はグループ全体で増収増益となり、この難局を乗り越えることができました。組織全体が急激な環境変化に対して、連携を取りつつ自律的に行動する“変化対応力”を発揮できたことが、この業績につながった一番の理由だと考えています。第3次中期経営計画の前半2年の経験を通して、厳しい環境を乗り越えることができる組織力が着実に高まっていると感じています。

国際事業は成長を加速

国際事業は、2023年において収益を大きく拡大し、事業利益がグループ全体の半分以上を占めるまでになりました。この国際事業の躍進は、トマトペーストの在庫逼迫による市況の上昇を機動的な価格改定によって乗り越えられたことと、外食需要の回復によりグローバルフードサービス企業への取り組みが進んだことによりもたらされました。
ただし、今回の収益拡大は、前中期経営計画期間から進めてきた収益構造改革の取り組みがなければ実現しなかったと思っています。米国の子会社KAGOME Inc.では顧客や商品の選択と集中を進め、ポルトガルの子会社Holding daIndustria Transformadora do Tomate, SGPS S.A.(以下、HIT)においては、トマト一次加工規模の適正化により収益性の改善を図ってきました。それらの活動により、収益構造改革の目途が立ちつつあったところに、外食需要の回復という環境変化があり、その追い風を最大限に活かすことができました。
この状況を踏まえて、2024年から始まった第3次中期経営計画の後半2年においても、国際事業の成長をさらに加速させていきたいと考えています。そのための施策の一つとして、2023年10月に国際事業本部を社内カンパニー体制(カゴメ・フード・インターナショナルカンパニー)に移行しました。移行に併せ、カンパニープレジデントに権限を移譲し、カンパニー内の連携を深めるため海外子会社のCEOをメンバーとする経営会議を設置しました。これにより、市場の変化に迅速に対応すべく意思決定のスピードを上げ、グローバルフードサービス企業への対応力を強化していきます。
また、今回のIngomarの連結子会社化も、国際事業の成長を加速する非常にポジティブな要素になります。Ingomarの連結子会社化により、米国においては「種子開発・販売(United Geneticsグループ)」「一次加工(Ingomar)」「二次加工(Kagome Inc.)」と同一地域内で完全なバリューチェーンを保有することになります。これにより、米国トマト加工事業の成長力をもう一段階引き上げることができるのではないかと考えています。

国内事業は利益回復に注力

2023年の国内事業は、農産原料の価格高騰に伴う原価上昇を跳ね返すための価格改定の完遂と、一時的に減少する需要の回復に注力した1年となりました。その結果、売上収益は増収となりましたが、事業利益については原価上昇を全てカバーするまでには至らず減益となりました。
カテゴリー別では、外食需要やインバウンド需要を取り込んだ業務用商品は順調に伸長しました。また、価格改定の影響を大きく受けた野菜飲料についても2023年第4四半期(10月~12月)には販売金額が前年を超え、年間を通して実施した需要喚起策の手応えが感じられました。
しかしながら、国内事業の原材料価格は2024年においても、大幅に上昇する見込みです。この状況に対応するため、第3次中期経営計画の後半2年においては、引き続き「利益の回復」に徹底して取り組みます。2024年2月には、2年連続となる全主力商品の価格改定を行いました。それとともに、需要喚起に向けた野菜や植物性食品の価値をお客様に伝える活動を広範に展開していきます。特に野菜飲料については、カテゴリーリーダーとして市場規模縮小トレンドからの反転を果たすべく、朝の食シーンにフォーカスしたプロモーションを展開します。また、トマトのリコピンだけでなくにんじんの機能性成分β-カロテンに関する情報発信を強化します。
2020年に開始した「野菜をとろうキャンペーン」は、2024年で5年目を迎えます。小売店の店頭や自治体のイベントなどでベジチェックRの体験機会を増やしたことにより、測定回数は累計700万回(2024年1月末時点)まで増加しました。測定 により自身の野菜摂取量を認識することで、野菜飲料の購入につながる事例も多く出てきています。野菜飲料のトップライン拡大につながる活動として、今後も継続していきます。
また、さらなる原価低減に向けて、サプライチェーンの基盤整備を進めます。国内事業で使用する農産原料は、90%以上を海外から調達しています。そのため、様々な変動要素がある中、タイムリーに調整を重ねて安定的に調達することが重要になります。この課題に対応すべく2023年から数年かけて、社内の調達部門・SCM部門・営業部門に加え、取引先を含め一気通貫でデータを管理できるように、サプライチェーン全体のシステムを刷新していきます。これにより、原材料調達量、商品の生産量・在庫量などを最適化することでロスを大幅に削減し、利益の回復につなげます。

2025年の目標達成に向けて

2024年2月の決算発表に併せて、第3次中期経営計画最終年度である2025年度の定量目標を更新しました。「利益獲得力はついたものの持続的な成長が果たせなかった」前中期経営計画の総括から、成長に力点を置いた第3次中期経営計画の総仕上げとして、連結売上収益3,000億円、連結事業利益240億円を新たな目標としました。カゴメがこのスケールの収益を目指すのは初めてですが、グループの力を結集して達成を目指します。
そのためには、国際事業の成長加速・国内事業の利益回復に向けた活動に加えて、「新しい成長の種を探索し、事業に育てていく」一連のプロセスの強化が必要です。このプロセスを動かす起点として2020年10月に事業開発室を設置し、オープンイノベーションによる新事業の可能性を追求してきました。そしてその活動の中から、プラントベースフードのスタートアップである株式会社TWOやインナービューティー領域に事業展開する株式会社資生堂などとの協業が生まれました。
今後は、それらの協業の育成活動に注力するとともに、グローバル・アグリ・リサーチ&ビジネスセンターの米国法人なども活用しながら、オープンイノベーションのスコープを広げていきたいと考えています。
また、これらの成長に向けた活動と並行して、「ROIC管理」を社内に浸透させ、事業ポートフォリオや生産拠点、商品構成などを大胆かつ柔軟に見直すことで、資本効率性を高めていきます。2025年度の目標として、「ROE9%以上」を達成したいと考えています。

「カゴメの人」の力で、中長期の持続的成長を実現する

一人ひとりがポテンシャルを発揮できる環境を整える

これまで述べてきた国際事業の成長加速、国内事業の利益回復、新事業の探索・育成の仕事を担い、前に進めていくのは「カゴメの人」に他なりません。一人ひとりに「農や食の課題を解決する」という強い想いや、それを実現していく熱量がなければ、カゴメの持続的成長は成し遂げられません。それゆえに、全ての「カゴメの人」が、その人の持つポテンシャルを存分に発揮できる環境を整えていくことが会社としての責務だと考えています。
最も優先すべきことは「カゴメの人」の健康に対するサポートです。心身の健康は、豊かな人生を送っていくための前提条件であり、組織のアクティビティもそのことにより高まります。さらに、私たちが健康であることは、お客様の健康づくりに資する商品やサービスを展開する当社の事業内容に説得力を持たせることにもつながります。
これらのことから「健康経営の強化」を重点課題とし、ベジチェックRを活用したカゴメならではのプログラムなど、ハイリスクアプローチ・ポピュレーションアプローチの双方向から従業員の健康な毎日をサポートしています。2023年には、きめ細かい活動が評価され、健康経営優良法人2023(大規模法人部門 ホワイト500)にも選定されました。
もう一つは、「心理的安全性」が保たれた組織風土づくりです。「心理的安全性」は、率直な意見や素朴な疑問を誰もが気兼ねなく言える状態が保たれている時に感じるものです。そういった組織やチームにおいては、所属するメンバーのエンゲージメントやパフォーマンスが高いことが、様々な研究で明らかにされています。
私は「カゴメの人」がそれぞれのポテンシャルを存分に発揮できる環境として、「心理的安全性」が保たれた組織風土を必要不可欠なものと考えています。「率直な意見を気兼ねなく言える状態」の実現は容易なことのように思えますが、実際には、全てのメンバーの理解や努力が必要でなかなか簡単ではありません。
2020年の社長就任以降、社内報などで「心理的安全性」についてのメッセージを機会あるごとに発信し、ダイバーシティ活動の中で研修を行い、社内浸透度を毎年モニタリングして次の施策につなげていくというサイクルを繰り返してきました。その結果、多くの「カゴメの人」の行動が変わってきているように感じます。また、2021年に導入したエンゲージメントサーベイのスコアも着実に向上してきています。
また近年、「心理的安全性」は、リスクマネジメントの面からもその重要性が注目されています。引き続き、経営の重点課題として「心理的安全性」が保たれた組織風土づくりへの取り組みを進めていきます。

次の10年の成長を見据えた戦略策定の始動

2023年11月より、次の中長期に向けた経営戦略「2035プラン」の策定を開始しました。「2035プラン」は、2035年のありたい社会の実現のために、カゴメが貢献すべきこと、カゴメが目指す企業像を明らかにし、そのための経営戦略と取り組むべき重点テーマを定めるものです。カゴメはこれまで、「2025年のありたい姿」を目指して歩みを進めてきましたが、「2035プラン」は、2026年から先の10年にわたる私たちの道標となる指針です。現在、次代の経営を担う執行役員を中心メンバーとし、多くの従業員の想いも反映しながら策定を進めています。
この「2035プラン」に盛り込まれる重点テーマの一つは、「中長期人材戦略の策定と実行」になると考えています。2035年に向けた社会の変化は、これまでとは比べものにならないほど大きく、それに対応するためにカゴメの事業ポートフォリオや事業展開エリアは劇的に変わる可能性があります。この激しい変化の中で、カゴメグループの成長を支える人材にはどのような要件が必要になるのか、そしてそれをどのように手当てしていくかを示すことが大変重要だと考えるからです。

ステークホルダーの皆様へ

2023年は、カゴメグループが一丸となって活動することにより、過去に類を見ない原材料価格の上昇を乗り越えることができました。この急激な環境変化に対応できたことは、目指してきた「強い企業」としての組織力がついてきたことの証左です。この組織力をさらに強化しながら、一つひとつの課題に誠実に向き合うことで、2025年度を最終年度とする第3次中期経営計画の目標の達成と、その先の10年を見据えた経営戦略の策定を進めていきます。そのために、カゴメの強みである農から価値を形成するバリューチェーンをさらに進化させ、全てのステークホルダーの皆様のご期待に応え企業価値を向上させます。引き続きのご支援をお願いします。

2024年3月
カゴメ株式会社
代表取締役社長
山口 聡

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