2026年1月に代表取締役社長に就任しました奥谷晴信です。創業127年の歴史を受け継ぎ、日本及び海外関係会社を含めたカゴメグループのトップとして当社を率いていく立場となり、大変身が引き締まる思いです。まずは私自身の信念や決意、経営にかける想いについて、お話しします。
1990年に入社して以来、国内外の実に様々な部門で経験を積んできました。最初の10年間は工場勤務や農産加工原材料の調達業務に携わり、その後は国際事業の開発とイタリア子会社への出向、国際事業本部での戦略立案や収益構造改革及びグループ会社のマネジメントを担当、直近の5年間は、2024年のIngomar Packing Company, LLCとのM&A推進をはじめとする事業拡大やカゴメグループ全体のコーポレート企画業務等を担ってきました。
社内でもユニークなキャリアを積んできた方ですが、いずれの経験からも他に代えがたい学びを得られました。中でも特に印象深いのは、ものづくりの現場である工場での勤務と国際事業に関する業務です。入社直後の工場での勤務は、カゴメが最も大事にしている「品質第一」「現場・現物・現実」といったものづくりへの考え方や、安心・安全へのこだわりについて触れる経験となり、その後の様々な判断や意思決定における拠り所となっています。国際事業に関しては、日本と異なる文化や利害関係の中で物事を前に進める力を養えたこと、また、社内外・国内外の様々な人と接することで、多様な考え方への理解が深まったことが大きな財産です。また、2度の出向を通して、カゴメの特徴や課題を客観的に見ることができたという経験も、今後の経営に活かしていきたいと思っています。
カゴメの歴史を振り返ってみると、当社の歴代の社長たちには「見えないものを見えるようにしてきた」という共通点があります。例えば「食を通じた社会課題の解決」、「農からの価値形成」など、カゴメが元来有している強みを言語化し、社会貢献と企業成長を両立させてきたのがカゴメのリーダーであり、このようにして生まれた強みが、現在のカゴメの「企業文化」になっています。また、当社が持つブランド、人材、知的財産、お客様・お取引先様との信頼関係などの「無形資産」はかけがえのない財産です。
当社の強みである「企業文化」をさらに醸成しグローバルに広げていくこと、そして「無形資産」を拡充し、新たな価値創造に取り組み、さらなる成長と社会課題の解決を実現していくこと、それこそが今後のカゴメの経営を担う私の使命だと認識しています。
また、グループ経営体制のマネジメントについても解決すべき重要な課題だと思っています。今や当社の事業利益における国際事業の比率は41%を占める構造となってきていますので、経営体制もそれに対応させていく必要があります。既存の国際・国内加工食品事業と新しいチャレンジ領域の事業において、各部門の責任者との役割分担を明確にし、社長としてやるべきこと、決めるべきことに注力していきたいと思っています。
2026年2月に、カゴメグループ新理念体系を発表しました。これまでも長期ビジョンは定期的に改訂してきましたが、今回は既存の企業理念や行動規範、ブランドステートメントなどを含む全てを体系的に考え直し、新たに「ミッション・ビジョン・バリューズ(以下、MVV)」として再整理をしています。
2024年から約2年にわたり、経営陣や従業員、社外取締役、お得意先など、様々な方との議論や意見交換を繰り返して作り上げていきました。トップの一声で決めてしまうのでなく、ステークホルダーも含めたグループ全体で作っていくという姿勢は、非常にカゴメらしさが表れていたと感じます。カゴメ内部では「大切にする軸はこれまでと同じで良いのか」「もっと変わらなければいけないのではないか」という2つの考えの間で非常に悩む局面もありましたが、社外の方から「今持っている素晴らしい価値をもっと伸ばしていってほしい」など、非常にサポーティブなご意見をいただき、それらも取り入れながら考え方の軸を定めていったという印象です。
ミッションでは「循環」という言葉が、重要なキーワードになっています。これは、私たちカゴメの原点である農業と自然の関係性を改めて定義した言葉で、人が自然に働きかけることで、自然が豊かさをもたらし、さらに人々の健康や社会の持続性に貢献していくという「相互作用」を表現しています。
また、「人が自然を、自然が人を」という表現については、経営陣の間で興味深い議論がなされました。西洋と日本における自然との向き合い方の違いは何か、という視点に立つと、日本の自然との向き合い方は「共生」なのだろう。そして、自然との一方的な関係性ではなく共生していくこと、それはこれまでもこれからもカゴメの使命なのだという想いが、この表現に込められています。私たちは農業から始まった会社です。カゴメの価値の中心には、常に農や自然があり、その領域をどれだけグローバルに広げていけるのかがチャレンジであると考えています。
2035ビジョンは、2035年までの地球環境の変化や食糧問題、個人の価値観の多様化等、環境予測をもとに「よりよく進化した未来とはどういった状態か」というカゴメなりの定義を構築し、それをどう実現していくのかというバックキャスト型で考えています。定義した未来に対してカゴメができる価値提供は何か、その問いに対する答えを「農から食にわたる技術革新」という言葉に込めています。
バリューズについては、社内での共感値が非常に高かったことが印象的でした。全く新しいことをバリューズとして伝えたのではなく、カゴメに既に存在していた「企業文化」を言語化できた、まさに「見えないものを見えるように」したということです。語尾の表現は、社員一人ひとりの積極性に働きかけ、日々の業務の中での前向きな行動を促す言葉となるよう「~しよう」で統一しました。バリューズのもと、カゴメグループのメンバー一人ひとりが、新しいことへ果敢にチャレンジしてくれることを期待しています。
今後は、MVVを社内にどう浸透させていくかが課題です。経営陣・従業員、海外を含めたカゴメグループの皆がMVVを理解し合うこと、目指す先の共有と浸透、そして対話が肝になっていきます。1回掲げたら終わりではなく、繰り返し対話して伝えていくこと、特に海外グループ会社においては、まずは各グループ会社の経営陣と、現地で顔を合わせて共有を深めていくことから始めたいと思っています。
グループ経営の基本は、同じカルチャー・同じ思想に立つことというのが私の考えです。カゴメのグループ会社は、自然の恵みから価値を生み出すという点でベースとなるカルチャーはそもそも近いのですが、MVVによってそれがよりクリアになり、グループ経営の進化に向けたさらなる一歩を踏み出すことができると思っています。
2035ビジョンにおいて「ビジョン実現をドライブする2つの構想」として「農と食のウェルビーイング事業の展開」と「環境負荷の低いトマトビジネスの開拓」を掲げました。2035ビジョン策定にあたって想定した「よりよく進化した未来」を、私たちは「個人個人の関心事に対して、社会課題を解決するイノベーションが浸透・普及し、社会や地球環境、個人の身体を含めた健全性が保たれ、よい影響をもたらしている未来」と定義しました。その実現に向けて、カゴメが既に持っている知見や持たなければならない経営資源を融合した結果、この2つの領域にたどり着いたという経緯です。
「農と食のウェルビーイング事業」では、農と食を起点としたコミュニティの場や、つながりを提供し、心身の健康だけでなく、社会的健康ニーズに応える新しい事業の構築を目指します。2026年度からの3年間でビジネスモデルの原型を作ることを目標としています。私たちが持つ無形資産(ブランド、商品、人材、知的財産、お客様・お取引先との関係など)と、新たな資源とを掛け合わせて価値を生み出していくべく、10年後の事業規模を見据えながら、まずは事業基盤づくりに注力していきます。
「環境負荷の低いトマトビジネス」は、当社の特徴的な価値創造の仕組みを最大限に活かした事業構想であると言えます。当社は農での実証や研究に基づくエビデンスを起点としたバリューチェーンを展開しており、これまで培ってきた研究開発技術を駆使しながら、環境負荷の低いトマトビジネスの開拓を目指していきます。特に海外では、トマトに特化した川上分野での取り組みがかなり進んでいるため、将来的に日本でのノウハウ活用につなげていける可能性も秘めていると考えています。
この2つの構想は、既存の国内加工食品事業・国際事業と別の事業ではなく、あくまで既存事業で培った「無形資産」を最大限活用するとともに、新たな資源を取り込んで価値創造に挑むものです。各事業ポートフォリオの戦略の明確化とグループ経営の推進、適切な資源投下などマネジメントの徹底に励み、将来の成長を担う事業の育成を実現していきます。
2035ビジョン実現に向けた10年方針は、3つの期間ごとの中期経営計画(以下、中計)にて展開・推進し、2026年~2028年は「Kagome Group Plan 2028」に基づいて、取り組みを進めていきます。
2035ビジョンの実現を通じて目指す2035年度の定量目標は、売上収益5,000億円、事業利益500億円、ROE12%以上、2028年の定量計画は売上収益3,250億円、事業利益270億円にインオーガニック成長を加え、ROE9%以上を見込んでいます。10年方針の定量目標は、社会に対してカゴメが提供できる価値の規模感として設定しており、前中後期の各中計で着実に成果を積み上げることで達成を目指していきます。
国際事業においては、二次加工を中核とした成長を加速させ、国内加工食品事業は、人口減少という逆風の中でも、収益獲得力の強化を進めていきます。さらに、2028年までに500億円程度のM&Aを含む戦略的な投資を計画しています。
中計の達成に向けては、各事業の多方面からの施策とチャレンジが重要になると考えています。国際事業は、商品・サービスの競争優位性や独自性を磨いていくこと、国内加工食品事業は、人口減少を乗り越えつついかに需要創造を実現できるかが課題です。また、近年のインオーガニックの取り組みは、国際事業を拡大するためという考え方でしたが、今後は国内も対象として考えています。国内における新規事業や農と食のウェルビーイング事業、既存事業のさらなる拡大、収益率の向上など、事業の新旧や国内外の線引きをせずに、必要なM&Aは検討していく方針のもと、事業成長を図っていきます。
ROEについては、2028年度に9%、2035年度に12%達成を目標としています。これらの実現に向けては、収益性の高い事業への資源配分の最適化と、ROIC管理も含めた資本効率の向上が特に重要だと考えています。現在の国内加工食品事業の中で、成長性があり資本効率も良い領域はそう多くありません。この実態を冷静に判断・分析し、今ある領域の底上げを図るのか、全く新しいサービスを創造するのか等、適切な事業ポートフォリオマネジメントを推進していくことが重要です。
当社の事業の性質上、市況の変化によるボラティリティは避けられない側面がありますが、その影響のレベルを低く抑えることは可能だと考えています。国内外で培ったノウハウを活用した徹底的な原価マネジメントや生産性の向上に加えて、農業技術開発分野への資源投下による収穫の安定性向上と収量増加は、農から価値を形成する私たちだからこそできる取り組みです。また、変動影響を許容できる幅に収めることが可能な事業ポートフォリオを構築していくことを含めて、「我々自身の努力で実現できること」を着実に進めていきます。
国際事業の戦略のポイントは、フォーカスエリアの特定です。限られた経営資源の中で成長市場を見極めて、自社で担う範囲と他社と協力する範囲の区分をこれまで以上に考える必要があります。例えば、北米はフォーカスエリアの1つですが、品種開発から二次加工までカバーしている中で、それぞれの結びつきをどう強くしていくかが課題と捉えています。その他の国においても、事業チャンスがある地域へは貪欲に参入していきたいと考えています。
従来公言している北米を中心とした業務用フードサービス市場については、これまで以上にアグレッシブに挑戦していく意向です。このエリアはトマト加工産業がある程度完成されていますので、どこで競争優位性を確保するかが勝敗の分かれ目になってきます。需要創造が重要とは言え、フードサービスである以上、商品そのものに価値がなければ話になりません。一定のコスト競争力を有していることは大前提として、私たちが取り組むべきは、お客様のニーズに即座に対応できるソリューション提供力を強化し、それを真の優位性に高めていくことだろうと思います。例えばR&Dやイノベーティブな商品の開発、精緻なマーケティングによる店頭の課題解決などもソリューション対応力の1つです。日本では既に実践していますので、海外でもチャレンジしていく必要があります。ほかには、グループ間の情報やノウハウを管理・共有・活用していくためのプラットフォームを持つことも有用です。
また、トマト加工産業がまだ黎明期にあるインドにおいては、将来的なポテンシャルを注意深く見極めていきます。当社がインドで競争力と必要な品質を確保するためには、川上(品種開発・栽培)から川下(消費者)までをカバーして、バリューチェーンに深く関与するビジネスモデルを作らなければなりません。関与の度合いについては、市場環境や事業のステータスに応じて段階的になると考えています。この活動には当社がこれまで行ってきた農から始まるバリューチェーンの構築に関する知見が活きると考えています。
インドにはトマトを食材としてカレーを作るなど、トマトを調理して食べる食文化があり、レストランの厨房では生のトマトから調理している所もまだまだ多いです。一方でトマト加工品を使用する世界的なピザチェーンも急増しています。人手から加工品に変わるタイミングをタイムリーにキャッチし、レストランに商品を置いてもらう営業機会を探るなど、市場を見極めながら事業拡大のチャンスを的確につかんでいきます。
現在のカゴメの国際事業に足りないのは、海外においても「カゴメでなくてはダメ」と言われるほどの競争力です。世界各地でトマト事業を展開し、安定した品質と供給力、さらにはお客様にソリューションを提供する能力をさらに強化し発揮することで、選ばれる商品・サービスの創出を実現していきます。
国内加工食品事業においては、リスクの1つとして、農業の担い手の減少が挙げられます。当社の強みは安定した原材料調達力と契約農家との関係性ですが、気候変動の影響などにより、現在の状態を維持し続けられるのかは不透明であり、バリューチェーンのさらなる強化の必要性を感じています。今後は、一次加工より前の川上領域への参入とその方法について考えるとともに、国内の農業の持続性にどう関わっていくのかという、大きな視点で検討していかなければなりません。現在、北海道での国産加工用トマトの一次加工拠点の新設も予定しています。これにより、輸送効率の向上と環境負荷の低減を図るとともに、安定的な調達を確保し、ひいては国内のトマト加工産業の持続的な発展に貢献できると考えています。
国内は成熟市場ではありますが、カゴメのブランド力やお客様との深い信頼関係は、現在でも着実に成長していると認識しています。野菜飲料の需要喚起策にも引き続き取り組み、商品そのものが発信する価値や、商品のポテンシャルを引き出し、深掘りしていくことで、さらなる需要創造に取り組んでいきます。
新たなビジョンの制定に伴い、マテリアリティも見直しました。社会課題のロングリストを出発点に、自社とステークホルダー双方の視点で重要度を評価し、7つの重要課題を再特定しています。新たなマテリアリティはこれまで以上に社会とカゴメとの関係性を鮮明にする表現に見直しています。事業を通じて社会課題の解決に挑戦していくことはこれまでと変わりません。人的資本の強化においては、経営戦略と人材戦略の連動を図りながら、人材価値の最大化に取り組んでいきます。当社はこれまでも人的資本経営には特に力を入れて取り組んできました。根底にある「当社を好きで働いてくれる人たちの成長が、カゴメの成長につながっていく」という基本の考え方は変えていませんが、今後の経営を考えたときに重要なことは、多様な人材集団を形成することだと考えています。ここでいう「多様」とは、ジェンダーや国籍はもちろん、DXやグローバル、サステナビリティなどのスキル面での専門性の深化も意味しています。
幸い、働き方改革や心理的安全性の確保など、以前から注力してきた取り組みが既に社内に浸透していますので、私はその土壌の上で人材価値の最大化に励んでいきたいと思います。「経営は舞台を準備して、そこで人を育てていくことが(会社の)役割である」という7代目社長である喜岡の言葉があるのですが、私も従業員が最大限に力を発揮できる「舞台」を整えて、皆さんの活躍を後押ししていきたいと思います。また、各人の役割を明確にし、誰かの指示を待つことなく自らオーナーシップを発揮して取り組んでいける仕組みづくりにも、グループ経営の観点から取り組んでいきます。
コーポレート・ガバナンスに関しては、取締役会の役割が長期視点の企業価値向上に資するものに変化している潮流を踏まえ、執行側と経営側の役割分担をよりクリアにしていくことの重要性を感じています。国際事業については2023年に社内カンパニー化し、戦略は経営側が策定し、意思決定の権限は両者合意の上でカンパニー側へ委譲する構造ができています。今後はこれを事業ポートフォリオや戦略単位に対応できるものに広げていく必要があると考えています。かねてより推進していることではありますが、適切な情報開示も含めてクリアな運営体制をどう維持していくのかが重要だと認識しています。多様な経験とカゴメ以外の企業文化に関する知見を持つ社外取締役の方々からの意見を引き続きいただきながら、取締役会の実効性向上に努めていきます。
また、投資家の方々とのコミュニケーションについては、適切かつタイムリーな情報開示と、情報を丁寧に伝えていく対話型の機会を積極的に持つことを重要視しています。2025年はセルサイドアナリストの方々を米国にお招きし、畑や工場の生産現場を見ていただく機会を作りました。こういったリアルな場での対話を引き続き大切にし、国内外の投資家の方々との接点を拡大していくことで、当社の独自の強みをご理解いただくとともに、対話から得られる貴重なご意見を経営に反映していきたいと考えています。そして、24万人を超える個人株主の方々との関係性についても重要視しながら取り組んでいきます。
127年の歴史を持つ当社の経営を引き継いだ今、守らなければならない価値と、変化・進化させるべきところをどう見極めて、未来へのさらなる成長につなげていくのか、それが私に課せられた大きなチャレンジであるとの想いを新たにしています。
新たに設定したMVVのもと、経済価値と社会価値の両面から成長を図り、企業価値を高めていくため、まずは足元のKagome Group Plan 2028で成果を出すことに最大限力を注いでいく所存です。
安心・安全やブランドへの信頼、従業員の働きがい、社会とのつながりや共助の取り組みといった定性的な価値を、私は「多面的なカゴメの魅力」と呼んでいます。これを、カゴメならではの企業価値として今まで以上に高めていくことを究極的な私自身の使命とし邁進していきますので、引き続きのご支援をお願いいたします。
2026年3月
カゴメ株式会社
代表取締役社長
奥谷 晴信